◆地位協定改定やアジア版NATOには触れず
首相は演説で「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、岸田文雄前首相が多用していた言い回しをあえて使った。防衛費を倍増した防衛力の抜本強化をはじめ、日米同盟や友好国との連携の強化など岸田政権の方針を踏襲すると強調。安全保障政策は多くの分量が割かれ、こだわりを感じさせた。参院本会議で所信表明演説をする石破首相=4日、国会で(佐藤哲紀撮影)
だが、首相の持論で、1日の就任会見でも主張していた日米地位協定の改定や「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の創設は素通り。沖縄の負担軽減や、東南アジア諸国連合(ASEAN)など持論と関係するテーマがあったのに、米国の理解を得にくい事情もあってか、演説には盛り込まれなかった。 首相周辺は「政府や党内で議論が煮詰まっていないことは書かなかった」と釈明する。それでも、党内で了承を得ていない最低賃金の引き上げ時期の前倒しや防災庁の設置検討といった独自政策は言及しており、安保政策のトーンダウンが目立った。◆裏金の実態解明やチェック機関の設置にも触れず
衆院選で争点となる裏金問題に関しては演説の冒頭に「国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばなりません」と神妙な表情で切り出した。岸田前首相が責任を取って退任したと説明し、5回も「信頼を取り戻す」と決意を繰り返したが、裏金づくりの経緯などの実態解明には口を閉ざした。石破首相の所信表明演説が行われた衆院本会議=4日、国会で(池田まみ撮影)
再発防止に向けても「改正政治資金規正法を徹底的に順守する」と当たり前のことを約束しただけ。「裏金議員」の公認問題や、政治資金をチェックする第三者機関の設置にも触れなかった。◆自民議員「がっかりした人は多いと思う」
首相はこれまで忖度(そんたく)せずに正論、筋論を唱える誠実さが国民に評価されてきたが、持論を薄めて党内融和を図り、政権の安定を目指す。ただ、過去の言動との整合性を疑問視されれば、新政権への期待感が失われるというジレンマもある。 自民の佐藤正久参院議員は4日夜のBS番組で「(石破首相の)期待値が高かった分、実際に政府として今言える部分にギャップがあり、がっかりした人は多いと思う」と懸念を示した。日本維新の会の馬場伸幸代表は国会内で記者団に「党総裁や首相のポジションを守りたいということで、長年、国民の視点に立って発言してきたことが全て封印された」と批判した。
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