大阪・関西万博の会場建設が進む大阪湾の人工島・夢洲。木造の大屋根(リング)は万博のシンボルとなる=3月4日
大阪・関西万博は、大阪市此花(このはな)区の人工島・夢洲(ゆめしま)で「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに来年4月13日~10月13日に開かれる。約160の国・地域や企業がパビリオン(展示館)を出展する。 日本政府が出展するパビリオン「日本館」は循環や持続可能性をテーマに、会場内の生ごみを利用したバイオガス発電や先端技術を紹介する。女性建築家らが手がける「ウーマンズパビリオン」や、関西9府県の歴史や文化を発信する「関西パビリオン」の公開も予定される。◆約2兆7000億円の経済効果を見込むが…
万博の象徴となるのが、パビリオンのエリアを囲むように設置される1周約2キロの大屋根。日差しや雨をよける効果もあり上を歩くこともできる。人を乗せて飛行する「空飛ぶクルマ」の運航も予定されている。 来場者数の想定は約2820万人で、アジア太平洋研究所(大阪市)は経済効果を約2兆7000億円と見込む。入場券は原則電子チケットで予約制。開幕後2週間の期間限定で1回入場できる大人4000円、中人(12~17歳)2200円、小人1000円(4~11歳)の「開幕券」など複数の種類がある。 開催に至る始まりは2014年、当時の松井一郎大阪府知事と橋下徹大阪市長が構想を打ち出して安倍政権に働きかけたこと。15年には府の検討会が誘致の可能性について報告書をまとめ、16年に府の別の会議が基本構想を策定した。この際、建設残土やごみの埋め立て地で、活用法が課題となっていた大阪湾の夢洲が会場候補地となった。ロシア、アゼルバイジャンと争った結果、18年11月、25年開催地に決定。日本での万博開催は05年の愛・地球博(愛知万博)以来、20年ぶりとなる。◆会場設備費1250億円→2350億円に
国家プロジェクトの万博は、費用も巨額となる。大催事場や大屋根のリングなど、万博会場内の建物の建設に充てる「会場整備費」は2350億円。誘致当時は1250億円だったが、資材費の高騰などで2度上振れした。国と大阪府・市、経済界で3等分する。 昨年10月に会場整備費が当初の約2倍になることが分かると、立憲民主党などの野党は「万博に一体どれぐらいの国費がかかるのか」と国会で追及。これを受けて政府は「万博の国費負担」を試算し、今年2月時点で1649億円と示した。 内訳は会場整備費の国負担分が最大783億円、日本館の建設の費用が最大360億円、途上国の出展支援が240億円、警備費が199億円、宣伝など全国的な機運醸成に40億円など。機運醸成費は必要に応じて今後も増えるとした。 スタッフの人件費や光熱・水道費は「運営費」と位置付けられ、国費は入らない。日本国際博覧会協会(万博協会)は入場券の販売収入や公式キャラクター「ミャクミャク」の関連グッズの販売収益で運営費をまかなう方針だが、こちらも膨張が予想される。協会は当初、運営費を809億円と見積もっていたが、最近の人件費の上昇などを踏まえて精査したところ、4割余り多い1160億円になるとの試算が出た。◆インフラ整備費は9兆7000億円
政府が公表した「万博の国費負担」は実態を正確に表していないとの指摘もある。 政府資料によると、万博に関連づけて国や自治体、民間が投じるインフラ整備費は9兆7000億円。このうち会場周辺の下水道整備や地下鉄の延伸などに810億円、会場へのアクセス向上を目的にした道路整備や関西空港の機能強化などに7580億円、主要駅の耐震化や河川改修などに約2兆5000億円がそれぞれかかるとした。インフラ費に占める国費の割合は「未確定」として、最終値を公表していない。 これとは別に、万博での実証実験などの関連事業をまとめた各府省庁の行動計画(アクションプラン)に、2兆8000億円の国費がかかる。会場で運航予定の「空飛ぶクルマ」や多言語翻訳技術の高度化、食文化の発信といった事業が含まれる。 こうした費用を巡り、内閣官房の担当者は「本来の行政目的のために実施する事業であり、万博のみに使われる金額の算出は困難」と説明。万博のための新規・追加的なものではないとして「万博の国費負担」の試算に含めていない。 立憲民主党は「インフラ工事や関連事業が多数予定されていることで、なし崩し的に税金が投入される可能性がある」と主張。国民負担の全容を明らかにするために昨年12月、衆議院に「予備的調査」を要請した。万博を巡る詳しい費用を公表するよう政府に求めている。◆規模縮小した愛知万博は黒字化
日本開催の過去の万博はどうだったのか。公式記録では、05年の愛知万博は会場整備費が1453億円、運営費は632億円だった。大阪・関西万博の会場整備費2350億円、運営費1160億円(いずれも2月時点)と比べ、規模は小さい。 ただ、愛知万博も曲折はあった。主会場に想定された愛知県瀬戸市の「海上(かいしょ)の森」には貴重な動植物が生息し、誘致の段階から市民が反対運動を展開。開催が決まった約2年後の1999年には、絶滅の恐れがあるオオタカが周辺で営巣していることが分かった。博覧会国際事務局(BIE)が万博の跡地を宅地などに利用する計画に懸念を示していたことも判明し、大幅な計画の修正を迫られた。 最終的に同県長久手市の愛知青少年公園を主会場にして、なんとか開幕にこぎつけた。パビリオンを結ぶ2.6キロの空中回廊がシンボルとなり、永久凍土から発掘されたマンモスの展示には連日、長蛇の列ができた。地元客のリピーターが多かったこともあり、目標の1500万人を大きく上回る約2205万人が来訪。黒字も達成した。 万博に詳しい名古屋学院大の小林甲一教授(社会政策)は「愛知万博は、環境破壊への懸念から規模を大幅に縮小したが、来場者数は想定を上回り、剰余金も生まれた」と指摘。大阪・関西万博を巡っては「市民が望むのであれば、規模縮小や経費節減をしての開催も検討すべきではないか」と助言する。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。