自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた参院の政治改革特別委員会が10日、初めて開かれた。自民、公明両党が9日に取りまとめた政治資金規正法改正の与党案に対し、野党各党から「中途半端」「改革とはほど遠い」と批判が集中。いわゆる「連座制」の導入や政策活動費の見直し、企業・団体献金の禁止などに関し、対応が不十分な与党案と、政治資金の透明化を求める野党各党案の具体的な違いはどこにあるのか。(井上峻輔、大野暢子)

◆確認しても気付かなかったら罪に問われない?

 立憲民主党の小沼巧氏が「対立しうる論点」と真っ先に挙げたのは、政治資金収支報告書への不記載時に議員本人の責任を問うためのいわゆる「連座制」だ。与党案は、国会議員関係政治団体の収支報告書を提出する際に議員の「確認書」の添付を義務付け、会計責任者が不記載などで処罰された場合に「確認が不十分であれば」という条件付きで、議員も処罰するとしている。

初開催された参院政治改革特別委員会=10日、国会で

 自民の磯崎仁彦氏は「『知らなかった』という言い逃れは二度とさせない」と力説したが「確認しても気付かなかった場合は罪に問われないこともある」(自民中堅)のが実態。小沼氏は、議員にも報告書提出を義務付ける立民案を説明して「実効性が乏しいとの批判を避けられない」と与党案に疑問を呈した。

◆野党案は政策活動費廃止に踏み込むが

 政党から議員個人に支出される政策活動費の使途公開もやり玉に挙がった。与党案では議員が使途を報告して党の収支報告書に記載するとしたが、どこまで具体的に記すかなど詳細は曖昧なままだ。  野党は政策活動費の廃止にまで踏み込んでおり、日本維新の会の高木佳保里氏は「大きな項目だけ公開しておしまいなら全く受け入れられない」ときっぱり。国民民主党の浜野喜史氏は「政策活動の透明性確保、議員の厳罰化といった点を含め、不十分と言わざるを得ない」と批判した。

◆自民はあくまで「政治には金がかかる」を前提に

 さらに、野党が求める企業・団体献金の廃止は、与党案で全く触れず、及び腰の姿勢が際立つ。自民の磯崎氏は「政治には金がかかる」ことを踏まえた議論が必要と主張し、規制強化に慎重姿勢を示した。  公明の里見隆治氏は「国民に納得いただける法改正を今国会で成し遂げる」と決意を表明した。だが、共産党の井上哲士氏は与党案を「抜本的な政治改革には値しない」とこき下ろすなど改革案の違いは大きい。  また、れいわ新選組の舩後靖彦氏は「裏金の真相究明なしに法改正の議論なし」として、関係者の証人喚問や参考人招致を要求した。野党各党には自民が法改正を口実に、事件をうやむやにしたまま幕引きすることへの反発も根強く、与野党の政治改革の溝は深い。    ◇

◆告発者の上脇博之教授「トカゲのしっぽ切りが可能」

 刑事告発で自民党派閥の裏金事件の発覚につなげた神戸学院大の上脇博之教授は本紙の取材に応じ、与党の政治資金規正法改正案が抜け穴だらけとし「裏金は告発や強制捜査がない限り表にならない。裏金をつくれない規制が必要だったのだが、全くそうなっていない」と批判した。

上脇博之・神戸学院大学大学院教授

 抜け穴の一つは、政治資金パーティーの存続を認めた点だ。「パーティーは裏金づくりが目的なことがはっきりしているのに禁止しなかった。改正案ではパーティー券代を預金口座への振り込みに限定するとしたが、例外規定が付けられており抜け道になる」。企業献金の禁止を盛り込まなかった点も「企業は政治資金収支報告書に記載義務がない。チェックのしようが全くなく、裏金はいくらでもつくれる」と指摘する。  罰則規定も問題がある。改正案では、会計責任者が処罰された上で、報告書に間違いがないことを示す「確認書」を議員が確認していなかった場合、初めて処罰されるという。上脇教授は「不正が見つかっても会計責任者がうその説明をしたことにすれば罪に問うのは難しく、『トカゲのしっぽ切り』が可能」と強調した。(小沢慧一) 

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