京大発スタートアップ、フロスフィアのクリーンルーム(写真=行友重治)

京都大学桂キャンパスのすぐ脇に本拠を構える京大発スタートアップ、FLOSFIA(フロスフィア、京都市)。真新しい工場のクリーンルームでは、技術者が試作品の評価に当たっていた。

人羅俊実社長は新材料でのパワー半導体の開発をけん引する(写真=行友重治)

同社は京大の藤田静雄名誉教授らが開発した半導体技術を生かし、省エネ性能の高いパワー半導体の開発に取り組む。三菱重工業やデンソー、ダイキン工業、三洋化成工業などからも出資を受けており、累計調達額は42億円に上る。

「失敗」が生んだ第三の素材

24年にも新素材を使ったパワー半導体の量産を開始する予定で、月産200万個分の生産体制を整える。パワー半導体の材料はこれまでシリコン(Si)が主流だったが、同社が手掛けるのは、次世代素材として注目されている酸化ガリウム(Ga2O3)の半導体だ。

パワー半導体は家電や産業機器、電気自動車(EV)などに使われる電子回路やモーターに、高圧で大容量の電力を最適な形で届ける「心臓」のような役割を担う。

新材料のパワー半導体は量産のしやすさなどが特徴だ(写真=行友重治)

パワー半導体の基板材料は現在主流のSiから、省エネ性能の向上につながる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)への置き換えが進むが、Ga2O3はその先を見据えた「第三の素材」として注目される。

「目の前の課題解決のためSiCやGaNが使われているが、もっと大量に安く作れる技術が必要だ」と創業者の人羅俊実社長は訴える。

創業者の人羅社長(写真=行友重治)

Ga2O3の優位性はSiCやGaNよりも量産しやすく、省エネ性能も高められる点だ。すでにデバイスレベルで電力損失がSiCの7分の1程度に下がることを確認できており、材料特性としては10分の1以下にできるポテンシャルがあるという。

同社が開発するGa2O3が誕生したのは、実は偶然だった。従来は「β型」と呼ばれる結晶構造しか知られていなかったが、冒頭の藤田氏の研究室でミストを使った新たな結晶技術でGa2O3を作ろうとしていたら「失敗」し、たまたま同社が現在使う「α型」を見つけた。「半導体の素材として着目されたことはほとんどなかった」(人羅社長)が、これを機に開発がスタートし、今に至っている。

発光ダイオード(LED)など産業用で使われている基板を使い、通常ガスで結晶を作る工程では水にガリウムの化合物を溶かす「ミストドライ」という新たな成膜技術を活用。安全性を高められ、安価に製造できるという。

価格面では中長期的に「シリコンと同等レベルに抑えたい」(人羅氏)と話す。当初は家電や産業用から着手し、将来的にはEVなどへの供給を目指す。すでに中国のEVメーカーも視察に来ており、新たな商機を生み出すことになりそうだ。

(日経ビジネス 西岡杏=日本経済新聞社)

[日経ビジネス電子版 2024年3月25日の記事を再構成]

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