英国の首都ロンドンを流れるテムズ川の水質汚染が深刻化している。春の風物詩となっているオックスフォード大とケンブリッジ大による大学対抗ボートレースでは、川の排せつ物にショックを受けた選手が試合前に嘔吐(おうと)。環境団体からは、汚染を放置してきた水道会社への批判の声が上がっている。
「試合前に吐いてしまった。川に排せつ物がなければよかった」。3月30日のレース後、試合に敗れたオックスフォード大男子チームのレナード・ジェンキンス選手は英BBC放送にそう語った。レースでは勝利チームがコックス(舵手(だしゅ))を川に投げ込むのが慣例となっているが、今年は健康上のリスクがあるため、主催者が「川に入らないで」と呼びかける異例の事態となった。
英国ではトイレの排水が雨水と同じパイプを通って下水処理施設に運ばれる。だが大雨の際に大量の水を処理しきれず、洪水になる事態を防ぐため、未処理の下水を川や海に放出することが認められている。
BBCによると、英国で最も人口の多いイングランドでは2023年、下水放出が360万時間に達し、22年の175万時間から倍増。テムズ川では深刻な感染症を引き起こすレベルの大腸菌が検出されているという。
環境保護団体リバー・アクションは「汚染が数十年も放置されてきた」と指摘。これに対し、ロンドン地域を管轄する英水道大手テムズ・ウオーターは「こうした排水を減らすため、今後は250以上の下水処理施設を改善する」と釈明している。
英国を代表する両校の対抗戦は「ザ・ボートレース」と呼ばれ、1829年に開始。第一次、第二次大戦や新型コロナウイルス流行による中断を経て、今年で男子は169回、女子は78回を数える春の伝統行事となっている。【ロンドン篠田航一】
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