大霜の朝、5月10日の始発バスで鳩待峠に降り立った。気温は零下5度。残雪こそ少ないものの、登山道脇の雪が解けて凍り付き、満車のバスからはじきだされた軽装ハイカーは危なっかしい。

歩き出しは尾瀬沼を経て福島県檜枝岐村七入に至る標高1591メートルから始まる歩道赤法華鳩待峠線のテプコ管理道。石段、木段、木道をたどり約1400メートルの尾瀬ケ原へと恐る恐る下るが、氷花に変幻したショウジョウバカマに見とれる余裕はとてもない。

 やがて群馬県管理の川上川橋を渡るとすぐに環境省管理道になり、真新しい木道を歩き続けて尾瀬ケ原上田代に入る。川上川天然カラマツ拠水林に、南半球から飛来したオオジシギがさえずっているのに気付き、隣木に飛び移るのを待って撮影する。

 早春の尾瀬ケ原の湿原は黒く、大小1800超を数える池溏(ちとう)は空を写して蒼(あお)い。取り囲む森の芽吹きは始まったばかりで、幾種類もの木々の葉は、思い思いに淡い春紅葉で着飾り始めた。

 牛首分岐からは、通称尾瀬ケ原迂回(うかい)路とも言われるテプコ管理歩道富士見峠尾瀬ケ原線にそれて歩む。白いミズバショウ一色となってにぎわうこの季節だが人影の大半は下ノ大堀川と竜宮に向かっていて、すれ違う人も少なく静かに満喫できる。歩道は富士見峠~長沢~竜宮~牛首分岐からつながる尾瀬ケ原迂回路に至り、群馬県のヨシッ堀シラカバ拠水林の先で突然新潟県に入って1級河川の福島県境只見川を渡り赤田代へと至るが、新潟県内なのに同県管理道ではないようだ。

 昼下がりの帰路、ヨッピつり橋から竜宮十字路に出て環境省管理道に戻ったが、一色のはずの花の色は遅霜と掘り起こしに遭い茶褐色のむき出しの泥炭となっていた。上ノ大堀川縁では天敵に捕食されたらしいカルガモの羽が散乱。公園一帯は多様で希少な自然生態系が優先する厳しい自然環境の世界であることを実感した。(尾瀬の自然保護を考える会・解説ガイド 杉原勇逸)

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