初打ち上げに成功したESAの新大型ロケット「アリアン6」(9日午後4時ごろ、フランス領ギアナの宇宙センター)=ESAライブ映像

【フランクフルト=林英樹】欧州宇宙機関(ESA)は9日夕方(日本時間10日未明)、新大型ロケット「アリアン6」の初めての打ち上げに成功した。1世代前のロケットの最後の打ち上げから1年がたち、欧州各国はイーロン・マスク氏率いる米スペースXに人工衛星の打ち上げなどを頼ってきた。経済安全保障の観点から欧州独自の基幹ロケットへの切り替えを進める。

アリアン6はフランスやドイツ、イタリアなど欧州13カ国の企業が出資する仏アリアンスペースが開発した。9日午後4時ごろ、フランス領ギアナの宇宙センターから打ち上げられた。直前の定期点検でデータ取得システムに「小さな不具合」が見つかり、打ち上げは当初予定より1時間遅れた。

9基の小型衛星のほか実験装置を積み込み、地球低軌道まで運ぶのが今回の主要ミッションとなる。飛行は3段階に分かれ、打ち上げから3時間後、南太平洋に落下予定だ。

アリアン6は高さ56メートル、重量540トン。2段式の使い捨てロケットだ。2014年に約40億ユーロ(約7000億円)を投じる開発計画が決まった。当初は20年の初打ち上げを予定していたが、開発遅れやデータの不具合などから数度延期していた。ひとつ前の世代の「アリアン5」は23年7月までに計117回打ち上げられた。

欧州各国は人工衛星の打ち上げなどでスペースXの大型ロケット「ファルコン9」への依存を強めている。この影響でスペースXの打ち上げ回数は世界でみても多い。宇宙産業コンサルタントの米Bryce TechによるとスペースXのロケット打ち上げは23年に96回で22年(61回)の1.6倍に増えた。欧州のアリアンスペースは3回にとどまった。

スペースXは24年1〜3月も31回に達し、ライバルの中国航天科技集団(CASC)の9回、ロシア国営ロスコスモスの5回を大きく上回った。ウクライナ侵攻で欧州各国がロスコスモスの大型ロケット「ソユーズ」を使えず、スペースXに発注が流れた影響も大きかった。

初打ち上げ直前の新大型ロケット「アリアン6」(9日、フランス領ギアナの宇宙センター)=ESA提供

アリアン6は26年までに年9〜12回ペース、計25回の打ち上げをすでに予定している。スペースXの衛星通信事業「スターリンク」に対抗するため、29年までに3200基以上の人工衛星の打ち上げを計画する米アマゾン・ドット・コムも顧客に含まれる。

新大型ロケットでは、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が7月1日に「H3」の3号基の打ち上げに成功したばかり。欧州と日本はともに独自の基幹ロケットへの切り替えを進めていく方針だ。回収・再使用型ロケットを主力に据えるスペースXに対抗するためには、打ち上げ回数の増加で膨らむコストをどう抑えるかが課題となる。

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