理化学研究所の村川泰裕チームリーダーらの研究チームは、遺伝子の働きを制御するDNAの特殊な配列を詳しく調べる技術を開発した。一つ一つの細胞を網羅的に解析できる。新たな種類の細胞の発見や病気の解明につながる。成果をまとめた論文を米科学誌「サイエンス」に掲載した。

理化学研究所の村川泰裕チームリーダー(東京都千代田区)

遺伝子は単体では強く働けず、周囲に存在するDNAの特殊な配列が働きを制御する。特殊な配列の一種であるエンハンサーは遺伝子が働くのに必要なたんぱく質を呼び寄せる。遺伝子ごとに相方となるエンハンサーが決まっている。

近年のゲノム(全遺伝情報)解析により、病気に関わる変異が特定されてきた。そうした変異の多くは遺伝子ではなくエンハンサーに存在しているとみられ、注目を集めている。病気につながる仕組みの解明にはエンハンサーが働いて作る特有のRNAを調べる必要があるが、極めて微量のために検出が難しかった。

研究チームはエンハンサー由来の微量なRNAを検出する独自の解析アルゴリズムを開発した。一つ一つの細胞で機能しているエンハンサーの種類を特定でき、どの遺伝子に対してどの程度作用しているかを網羅的に調べられる。

免疫の司令塔の役割を担うヘルパーT細胞を約100万個解析したところ、炎症性腸疾患や多発性硬化症など、自己免疫疾患に関わるエンハンサーを約600個特定できた。さらにこれまで見つかっていなかった新たな種類のヘルパーT細胞の存在も確認できた。

エンハンサーは遺伝子のように、細胞ごとに機能する種類が異なる。病気に関わるエンハンサーを特定できれば新薬開発の標的候補となるほか、病気の目印になるバイオマーカーの開発にもつながる。

研究チームは今後、白血病や腎臓がんのバイオマーカーの開発を進める。脳の神経細胞などの解析を進めており、精神疾患や不安障害の診断や治療薬の開発につながる可能性がある。

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