東京大学の塚崎雅之特任准教授や高柳広教授らは、がん細胞が骨に近づくと骨がコラーゲンなどからなる「防御壁」を作って侵入を防ぐことを発見した。動物実験ではこの仕組みがないとがんが進行した。防御壁を作る仕組みを人為的に操作できれば、がんの新しい治療法の開発につながる。
研究成果をまとめた論文が22日、英科学誌ネイチャーに掲載された。ヒトの体内では免疫細胞ががんを攻撃して進行を抑える。今回の研究は免疫系以外の細胞もがんに対抗する重要な役割を持つことを示した。
研究チームは口腔(こうくう)がん患者のあご部分の組織を観察したところ、がん細胞があごの骨の近くにある場合、骨を包む「骨膜」が数倍厚くなっていた。骨膜は骨の形成に関わる骨膜細胞や免疫細胞、たんぱく質の一種のコラーゲンなどからなる。
この現象をマウスで再現して調べたところ、骨膜細胞で「Timp1」という遺伝子の働きが強まっていた。この遺伝子はたんぱく質の分解酵素を働きにくくする。
がん細胞が近づくと骨膜にコラーゲンなどがたまって厚くなり、がんが骨に侵入するのを防ぐ壁として働いていた。骨膜細胞は何らかの仕組みでがんの接近を捉え、遺伝子の働きを強めているとみられる。
この遺伝子が働かないマウスにがんを移植すると、がんが骨に侵入してしまい、通常のマウスよりも早く死んだ。がんを移植しなければ通常のマウスと同様に生きたため、遺伝子はがんの侵入を防ぐ上で重要だと分かった。
将来的にはがん患者の手術後にTimp1を投与し、手術で取りきれなかったがんが骨などに侵入するのを防ぐ技術に応用できるとみている。がんの発見後に投与し、手術までにがんが進行するのを防ぐ使い方も考えられる。今後は骨以外の組織でも同様の仕組みを詳しく調べる。
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