パビリオンの建設現場に入ると、古い木の柱や梁(はり)が目に付く。「黒ずんだ木材はどこからやって来たのか、なぜここにあるのか」。来場者の中には、そう思う人が大勢いるかもしれない。
映画作家の河瀬直美氏がテーマ事業プロデューサーを務める大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」は、建物に廃校となった木造校舎を利用する。合計3棟を会場である大阪・夢洲(ゆめしま)に移築。2階建ての校舎を分割して積み上げるといった、大胆な再構成でパビリオンを形づくる。
基本設計は建築設計事務所SUO(京都市)、実施設計や建設工事、撤去工事は村本建設・SUO・平岩構造計画・総合設備グループが手掛ける。同グループが実施設計などを15億7000万円で落札した。
3棟の校舎を解体し、部材を万博会場に搬入。足りない部分や補強すべきところは直しながら合体させる。パビリオンを新築するよりも、はるかに大変な作業といえる。
3棟はいずれも昭和前半に建てられた校舎で、改修すれば施設として使える状態だった。移築するのは、奈良県十津川村の「旧折立(おりたち)中学校(北棟・南棟)」と京都府福知山市の「旧細見小学校中出(なかで)分校」。旧折立中学校(南棟)が「エントランス棟」、旧細見小学校中出分校が「対話シアター棟」、旧折立中学校(北棟)が「森の集会所」になる。
既に解体した校舎は部材を倉庫に一時保管し、随時会場に運んで組み立てを進めている。柱には学校に通った子供たちの落書きがそのまま残っている。
学校に通った人たちの記憶が残る場所で「対話」
エントランス棟と対話シアター棟は接続し、来場者は対話シアター棟内の劇場に移動する。現在は対話シアター棟に座席を配置するための斜めの床を施工しているところだ。
河瀬氏によるとこのパビリオンでは、「毎日異なるテーマを世界に問いかける。来場者全員がそれについて考え、みんなの前で対話する2人を全員で目撃する」という。一期一会の対話で、誰にも予想がつかない。対話者の1人は来場者からランダムに選び、もう1人は事前に募集する方針だ。
森の集会所は独立した「離れ」になる。木造躯体(くたい)だけを移築し、柱・梁の間にガラスをはめ込んで外の植栽や万博会場の中央部にできる「静けさの森」を眺められる休憩所にする。河瀬氏のパビリオンは静けさの森に隣接する好立地に立つ。森の集会所では訪れた見知らぬ人同士のコミュニケーションが生まれることを期待する。
3棟に囲まれた敷地中心部の庭には、大きなイチョウの木を植える。このイチョウも校舎のすぐ近くに立っていた立派な木だ。
(日経クロステック 川又英紀)
[日経クロステック 2024年8月6日付の記事を再構成]
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