米ワープは生成AIを活用してプログラムコードのコマンドラインをより直感的で連携しやすくする業務支援ツールを提供している=同社サイトから
生成AI(人工知能)をめぐって米マイクロソフトや米グーグルなど各社が開発を競う。マイクロソフトが提携する「Chat(チャット)GPT」を開発する米新興オープンAI(Open AI)もその一つだ。競争が激化する中、同社は法人向けサービスの強化に力を入れている。オープンAIとの相性がよく、次の買収候補となりえる3社をCBインサイツがまとめた。 日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

対話型AIの「ChatGPT」を手掛けるオープンAIは、様々なAI企業の攻勢にさらされている。新たなライバルスタートアップは常に誕生している。

同社はトップの座を維持するため、数十億ドルの資金を調達し、数千人単位で採用を拡大している。

さらに、法人向けテックの新たな能力と人材を獲得するため、この1年でスタートアップ3社を買収している。

オープンAI、買収で法人向けサービス強化

法人向けサービスの需要があるのは明らかで、大きな収益源に成長する可能性を秘めている。法人向けChatGPTの利用者は1月の15万人から4月には60万人と、数カ月で4倍に増えた。

これまでに買収した米マルチ(Multi)、米ロックセット(Rockset)、米グローバル・イルミネーション(Global Illumination)の新興3社は、法人向け事業の成功のカギとなる能力と人材をオープンAIにもたらしている。

・マルチは画面の共有により、離れていてもスムーズに協業できる動画プラットフォームを開発している。買収に伴い、少人数のチームはオープンAIのChatGPTデスクトップ部門に加わったとされる。デスクトップ向けChatGPTの強化は、オープンAIがソフトウエア工学などの法人向け事業にさらに浸透するチャンスになる。

・ロックセットはAIシステムのデータ検索・処理を高速化する手法を開発している。特に金融分析やサイバーセキュリティーなどリアルタイムデータへのアクセスが不可欠な業界で、オープンAIの法人向け機能の成功のカギとなる可能性がある。オープンAIの投資家である米セコイア・キャピタルは、かつてロックセットにも出資している。

オープンAIによる3社の買収には大まかな共通点がある。いずれも有能な人材を抱えた少人数のチームで、商用化の比較的初期の段階にあり、法人向けのAIツールやインフラを開発している。

この基準とCBインサイツのデータを活用し、オープンAIが法人向け事業を強化するために次の買収対象にする可能性がある、強力な経営陣がいるAIスタートアップ約60社を候補に選んだ。

CBインサイツが独自に算出した「モザイク」と「商用化の成熟度」のスコアは24年8月12日時点のものだ。データは更新され、スコアも変更される可能性がある

さらに、以下の基準を活用して対象を絞り込んだ。

・従業員数は75人未満

・BtoB(法人向け)ビジネスモデル

・商用化の成熟度(5段階)は1(発生)、2(実証)または3(展開)

・モザイクスコア(未上場企業の健全性を0〜1000点で測定)は600点以上

・経営モザイクスコア(経営陣の経験を測定)は上位5%

農業テックや不動産、警備など、オープンAIが参入する可能性が低い業界や用途を手掛けるスタートアップも除いた。

以下では、オープンAIと特に利害が一致しそうなスタートアップ3社を紹介する。

米ワープ(Warp)

ワープは生成AIを活用してプログラムコードのコマンドラインをより直感的で連携しやすくする業務支援ツールを提供している。

オープンAIと相性が良い理由:

・オープンAIに出資しているセコイア・キャピタルは23年6月、ワープの最新の資金調達ラウンド(シリーズB、調達額5000万ドル)でリード投資家を務めた。

・オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)もこのラウンドに参加した。

・ワープは既にオープンAIとのAPI(異なるソフトウエア同士をつなぐ仕組み)連携を提供している。

・ワープの創業者ザック・ロイドCEOはかつて米グーグルで表計算アプリ「Google スプレッドシート」チームを率いていた。同氏の在任中、このアプリの利用は40倍に増えた。

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米コアクティブ(Coactive)

コアクティブは自社を視覚コンテンツの法人向けOS(基本ソフト)と位置付け、テキスト、画像、音声などの情報をまとめて処理できる「マルチモーダルAI」を活用して非構造化データから洞察などを導き出す。

オープンAIは新型モデル「GPT-4o(フォーオー)」などマルチモーダルAIシステムを強化しており、視覚コンテンツからさらなる価値を抽出するコアクティブの機能が有用となる可能性がある。オープンAIがこの機能を導入すれば、法人顧客は自社の視覚データを使ってモデルを微調整できるようになる。

オープンAIと相性が良い理由:

・オープンAIはコアクティブの米データブリックスや米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)との提携を活用し、法人顧客基盤を開拓できる。

・オープンAIの投資家である米アンドリーセン・ホロウィッツは、コアクティブのラウンドに3回出資している。

・コアクティブの創業チームは米メタ、米ピンタレスト、グーグル、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で勤務経験がある。

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ノスティック(Knostic、イスラエル)

ノスティックは、検索やチャットボットとの対話で財務に関する機微情報が漏洩するなどデータの過剰な公開を防ぐため、企業内での大規模言語モデル(LLM)へのアクセス制御を手掛ける。

オープンAIとの相性が良い理由:

・ノスティックはオープンAIの「AIの安全性と責任」への取り組み拡大を支援できる。オープンAIは高度に規制された業界に参入しているため、この問題への懸念が高まっている。

・ノスティックの経営陣は金融サービスなど規制業界での経験がある。例えば、最高技術責任者(CTO)のSounil Yu氏は、米銀大手バンク・オブ・アメリカで主任セキュリティーサイエンティストを務めていた。

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