2021年7月のシベリア森林火災の衛星写真。煙が広範囲を覆う。右に見えるのはカムチャツカ半島=米航空宇宙局(NASA)提供

北海道大学の安成哲平准教授らはシベリアで大規模な森林火災が起きた際に、大気汚染が原因で亡くなる人が日本で年間数万人増えるとの推定結果をまとめた。シベリアの森林火災は主に落雷や火の不始末で起きるとされ、温暖化によって今後増えると懸念される。

有機物や硫酸塩といった微粒子(エアロゾル)やPM2.5(微小粒子状物質)などの大気汚染物質が生じ、風下の地域で健康被害を及ぼしたり気候に影響したりするとされる。ただ、影響の規模については不明な点が多い。

研究チームは地球の気候をコンピューター上で再現する気候モデルを使い、森林火災による大気汚染物質の影響をシミュレーション(数値実験)した。2003年に起きた大規模な森林火災で放出されたPM2.5の量の2倍が発生したと仮定し、地球の各地点での濃度変化を調べた。この規模の森林火災は将来的に十分起きうるという。

大気汚染の規模から死亡者数を推定するモデルを使い、火災が小規模だった場合と比べて日本や中国で死亡者が年間各数万人増えるとした。高い濃度のPM2.5は心臓病や脳卒中、ぜんそくなどを引き起こすと懸念されている。こうした病が悪化すれば死につながる恐れもある。

気候への影響も調べた。上空にばらまかれたエアロゾルは太陽光を反射する効果があり、03年の2倍のエアロゾルが生じると北半球で気温が下がる。ただ、今後の温暖化シナリオをもとに30年時点での森林火災の影響を調べると、エアロゾルによる気温低下は二酸化炭素(CO2)による温暖化の影響に比べて小さかった。

安成准教授は「今後、森林火災の様々な影響の理解を進めて対策をとる必要がある」と話す。東京大学の成田大樹教授や九州大学の竹村俊彦主幹教授らとの共同研究の成果で、論文が米地球物理学連合の学術誌に掲載された。

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