オリックスと関西電力が共同で手掛け、年内に運転開始予定の「紀の川蓄電所」(和歌山県紀の川市)。オリックスにとっては蓄電所の第1号案件となる(写真=オリックス提供)

東海道新幹線の米原駅から車で15分。滋賀県米原市の市有地で、国内最大級の「系統用蓄電所」の建設が始まる。オリックスが手掛け2027年に運転開始を予定する「米原湖東蓄電所」で、完成すれば2.6ヘクタールの土地に、リチウムイオン蓄電池を満載したコンテナ140台がずらりと並び、最大で548メガワット時の電力を蓄えられる。

系統用蓄電所は、大型蓄電池が送配電網とつながれており、電力の余剰時に充電し、不足時に放電して売電収入を得る。導入が進む太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が大きく変化する。特定地域内で需要を大きく超える電力が供給されると、最悪の場合、停電につながるため、発電量を意図的に抑える「出力制御」が各地で行われている。出力制御をした電力量が、九州では23年度に5年前の約13倍に達した。大型蓄電池の設置が進めば、再エネを無駄なく利用できるようになる。

オリックスが手掛ける国内最大級の系統用蓄電所「米原湖東蓄電所」(滋賀県米原市)は11月に着工し、2027年に運転開始を予定する(イメージ画像=オリックス提供)

太陽光の次の鉱脈

オリックスが手掛ける系統用蓄電所は2件目。再エネ事業を先駆けて実施してきた同社は、新規開発の重心を従来の太陽光から、再エネの「次の鉱脈」と目される大型蓄電池にシフトしている。「これまで太陽光を中心に再エネ事業を広げてきたが、次は、そうした出力が変動する電源の安定供給に資する『調整力』に投資することに意義があると考えた」と環境エネルギー本部の池谷桂一事業開発部長は話す。

米原湖東蓄電所は、再エネなど脱炭素につながる発電・蓄電施設への新規投資を後押しするために設立された入札制度「長期脱炭素電源オークション」で落札された。再エネなどのいわゆる「脱炭素電源」や大型蓄電池を新設もしくは全面更新したい事業者がオークションに応募する。案件が落札された事業者は、建設費などの固定費を原則20年間にわたり受け取れる。代わりに、売電収益の9割前後が小売電気事業者の取り分となる。発電や蓄電を手掛ける事業者の初期投資の回収の見通しを高めることで、国内の設備導入を加速する仕組みだ。

「ここまでの応募があるとは」。4月26日、第1回の結果が発表されると、エネルギー業界の関係者は驚きの声を上げた。太陽光や風力など複数の電源のうち蓄電池だけ、募集上限の5倍近くもの応募が殺到したからだ。

蓄電池事業へは、7月にKDDI、8月には石油資源開発など、様々な業種の企業が相次いで参入を表明している。富士経済によると国内で稼働を開始した系統用蓄電池は、出力ベースで22年は約2万キロワットだったが、翌23年には10倍以上に急増。40年には80万キロワットを超えると推計する。

蓄電池事業者への補助金に加え、4月には「需給調整市場」が全面的に開場するなど、蓄えた電力を売買できる環境整備が進んだ。8月7日には経済産業省が、蓄電池を活用する再エネ事業者は26年度から出力制御の対象から外すと発表。蓄電池は急速に、利益を生むビジネスになった。12年に、再エネを電力会社が高値で買い取る「固定価格買い取り制度(FIT)」が開始され、企業や個人が太陽光発電に一斉に投資した「太陽光バブル」をほうふつさせる。

蓄電池事業への参入企業は、それぞれの事業形態に応じた蓄電池の生かし方を模索している。KDDIは7月10日、グループ会社のauリニューアブルエナジー(東京・千代田)が主体の蓄電池事業に参画すると発表した。KDDIのネットワークセンター内で12月に、大型系統用蓄電池(出力1999キロワット、蓄電容量5608キロワット時)の建設を開始する予定だ。同社は30年度末までにグループの温暖化ガス排出量をゼロにすることを目指している。同社は大型蓄電池の知見を蓄えた上で、「昼間に太陽光発電で創出した電力価値を、KDDIの設備の夜間電力需要へ供給する」といった活用を検討するという。

石油資源開発(JAPEX)も8月19日に、同社初の大型系統用蓄電池(出力1999キロワット、蓄電容量6000キロワット時)の建設に着工した。25年春ごろから千葉県の同社敷地内で運転を開始する。同社は22年に策定した30年までの経営計画で、「油価変動(天然ガスや原油価格の変動)など外部環境の変化に左右されにくい収益構造を確立する」と掲げている。蓄電池事業や再エネ事業を拡大し、収益安定化と脱炭素への対応を急ぐ。

金融機関からも熱視線が集まる。三菱UFJ銀行は24年4月、日本蓄電(東京・港)が開発する「広原蓄電所」(26年7月より宮崎県で商業利用を開始予定)への85億円の融資を発表。22年には蓄電池事業を手掛ける国内ベンチャー企業へ出資。23年には日立製作所、蓄電池事業を手掛けるCHCジャパン(東京・千代田)の2社と、系統用蓄電池事業で連携を発表するなど、動きを速めてきた。

蓄電池の活用を短期間で進める新たな試みも始まっている。東京ガスが4月、他社が所有・管理する蓄電所の運用権だけを得る「オフテイク契約」を日本蓄電と結んだと発表した。東京ガス電力事業部電力企画グループの小林嵩課長は「(オフテイク契約の)スキーム自体は欧米に存在していたが、日本にはあまり例がなかった」と話す。広原蓄電所の20年間の運用権を得ており、自社保有の蓄電池と合わせて系統用蓄電池のネットワークを整備し、再エネ事業の拡大を加速させる。

外資も虎視眈々、後を追う日本

蓄電池ビジネスで先行する外資系企業も動きを加速させている。日本蓄電は蓄電所開発の世界的大手、英エク・エナジーの日本法人、CHCジャパンは車載電池世界最大手の中国寧徳時代新能源科技(CATL)らが設立したCHCの日本法人だ。4月に結果が公表された第1回の長期脱炭素電源オークションでは、落札された30件のうち実に20件以上を外資企業の案件が占める。最多の11件で落札されたヘキサ・エネルギーサービスは台湾が本拠地のヘキサ・リニューアブルズの事業会社で、アジアの再エネ事業拡大を狙う米インフラ投資大手アイスクエアドキャピタルの傘下企業だ。

「蓄電池に関連する法整備では米国や英国が先行しており、日本は後追いの状況。知見を得たい国内事業者は海外に出ている」。日立製作所の制御プラットフォーム統括本部野村太一主任技師はそう話す。同社は12年ごろから海外で蓄電池の設計から建設までを手掛けてきた。東京ガスや大阪ガスは、欧米の蓄電池市場にも参入している。

蓄電池自体も価格競争力を武器に中国勢が席巻。原料段階からサプライチェーン(供給網)を押さえる。この構図は日本のお家芸でありながら中国にリードを許した太陽光パネルとも重なる。三菱総合研究所エネルギー・サステナビリティ事業本部の湯浅友幸主任研究員は「国内の産業振興という観点で国も課題意識を持っている」という。再エネ拡大の鍵を握る蓄電池を日本の成長につなげる戦略が必要だ。

(日経ビジネス 馬塲貴子)

[日経ビジネス電子版 2024年8月22日の記事を再構成]

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