サバ科のスマの雑種を使って、マグロの精子を作らせることに成功した=東京海洋大提供

東京海洋大学の吉崎悟朗教授らは、クロマグロの精子を作るサバ科の小型魚を開発した。通常、クロマグロが精子を作るには生後4年程度かかるが、開発した魚では誕生から8カ月で精子を生み出した。別種の魚がマグロの精子を作り出した例は初とされ、迅速な品種改良技術や安価な養殖手法への応用が期待される。

成果をまとめた論文は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。

研究チームはサバ科の小型魚「スマ」の雑種を作り、ふ化後9日目のオスにクロマグロから取り出した精子のもととなる「生殖幹細胞」を移植した。水槽で成長させたところ、生後8カ月程度でクロマグロの精子を作り出す個体が確認できた。スマの雑種が作り出したクロマグロの精子は受精する能力を持つ。

一般的に魚の品種を開発するためには5世代の交配が必要とされ、クロマグロの場合15〜20年程度かかる。新たな技術を用いれば「精子を早く作れるだけでも、品種開発期間の短縮は見込める」(吉崎氏)という。

ただ、クロマグロの卵を産むスマの雑種は開発できていない。精子は移植した生殖幹細胞の成分をもとに作り出されるが、卵は母親由来の成分を用いて卵黄や卵膜などを作るため、親となる個体の影響を受けやすく「精子に比べてハードルが高い」(吉崎氏)。

今後は遺伝的にクロマグロに近い近縁種などを調べ、代理の親として最適な魚を見つける。今後5年程度をメドに代理の親魚を用いたクロマグロの誕生を目指す。

世界の水産物消費量は増加傾向にある。国連食糧農業機関(FAO)によると21年の世界の魚介類消費量は推定1億6250万トンに上り、1961年から約6倍に増えた。

マグロの需要が世界的に高まった影響で、日本近海に生息する天然のクロマグロの資源量は減少し、国際自然保護連合(IUCN)が生き物の絶滅するリスクを評価したレッドリストに指定される。天然資源に依存しない持続可能な養殖技術に期待が集まっている。

現状のクロマグロの養殖では20〜40キログラムで出荷することが一般的という。繁殖のためには性成熟する生後3〜5年まで成長させる必要があるが、体重は50〜100キログラムに達する。大型の飼育施設など高額な設備投資や飼育コストが課題だ。

サバ科の魚を代理にできれば、小型の陸上水槽などで受精卵の採取が可能になり、コスト削減につながる。研究チームはミナミマグロなど別の種にも応用できる技術とみており、高品質な養殖マグロを短期間で生み出す技術として実用化を目指している。

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