理化学研究所の谷内一郎チームリーダーらは、生体内に存在するたんぱく質を自在に分解する技術を開発した。マウスを用いた研究で、好きなタイミングで特定の臓器で狙ったたんぱく質を分解することができることを確認した。分解によって体にどのような影響があるか調べられ、病気の仕組みの解明や新薬開発などに役立つ。
様々な生命現象に関わるたんぱく質は、細胞が合成する量や分子構造などが変化すると、正常な反応を起こせず、体の不調や病気などにつながる。治療薬の開発には病気に関わるたんぱく質の機能を詳細に調べる必要がある。近年では細胞内にある特定のたんぱく質を狙って分解させることで、その機能を探る技術が世界で開発される。
従来は培養細胞など生体外の実験で活用する技術が多く開発されている。研究チームはマウスの生体内でたんぱく質を自在に分解できる技術の開発に成功した。ゲノム編集技術を用いて、標的たんぱく質の分解に必要な遺伝子を導入し、特定の薬剤で刺激することによってたんぱく質を分解する。
実験では特定のたんぱく質を9割減らせた。現状の遺伝子工学では、特定の臓器や組織のみで遺伝子を働かせる技術が開発されている。研究チームはこうした技術と組み合わせることで、肺や腸管など特定の臓器のみに作用させることにも成功した。「狙ったたんぱく質は8〜9割ほど減らせる」(谷内氏)という。
病気を再現したマウスに活用すれば、特定のたんぱく質を分解したときに、どのような影響があるか調べられる。分解によって症状が改善すれば、狙ったたんぱく質を対象とした新薬の開発につながる可能性がある。谷内氏は「あらゆるたんぱく質に利用でき、基礎研究や医学研究で広く使える技術だ」と話す。
国立遺伝学研究所などとの共同研究の成果で英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。
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