東北大学の井上飛鳥教授(京都大学教授を兼務)らは、脂肪肝の改善に関わる新たな生体反応を特定した。肝臓で特定のたんぱく質の働きを高めると、蓄積していた中性脂肪が分泌され改善された。脂肪をより燃焼する体質にも変化し、マウスでは体重増加を抑える効果もみられた。脂肪肝や肥満の予防薬の開発につながる可能性がある。

脂肪肝は肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態だ。過度な飲酒や肥満などが原因で、肝臓の機能が徐々に低下する。自覚症状は現れにくく、そのまま進行すると肝硬変や肝がんなどの発症につながる。有効な薬はなく、食生活や運動など生活習慣の改善が主な治療法だ。

研究チームは肝臓の細胞の表面に存在する特定の膜たんぱく質に着目した。このたんぱく質の働きを人為的に制御できるたんぱく質を作った。マウスの肝臓で働かせ、どのような機能があるか調べたところ、肝臓に蓄積していた中性脂肪の分泌が促され、脂肪肝が改善していた。

実験ではマウスを太らせるため脂肪分の多い食事をさせていた。通常のマウスは太り始めたが、膜たんぱく質を働かせたマウスは体重が増えなかった。食事量は通常のマウスと変わっていなかった。エネルギー代謝を詳しく調べたところ、エネルギー消費量が増加しつつ、脂肪をより燃焼させる体質に変化していた。

臨床応用に向けては課題もある。膜たんぱく質の働きを高めると、血中に存在する中性脂肪の量が増加するため、動脈硬化や心筋梗塞などの発症リスクが高まってしまう。井上教授は「血中の中性脂肪の量を減らす薬などがあり、併用することでリスクを下げられる可能性がある」と話す。

今後は肝臓細胞がどのように中性脂肪を分泌するのか詳細な仕組みを明らかにし、脂肪肝や肥満の予防薬の治療薬の開発につなげる。ヒトにもマウスと同じ膜たんぱく質が存在するとし、同じ現象がヒトでも起きるか検証する。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。