インフレや金利上昇で、アフリカ自動車市場は停滞している

3月上旬、エジプトの首都カイロを訪れた。都市部では自動車の数が年々増え、渋滞が激しくなる一方だ。トヨタ自動車や日産自動車、独フォルクスワーゲン(VW)といったあらゆるメーカーの自動車が走る中、目立っていたのが比亜迪(BYD)や奇瑞汽車などの中国勢だった。

実際、それは新車販売のデータにも表れている。もともとエジプトはトヨタや日産が現地で組み立て生産をしており、日本メーカーの販売シェアが高かった。その日本勢に中国勢が迫っているのだ。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、新車販売台数のトップは日本車、2位は中国車という構図は2021年から23年まで変わっていない。だが、その差は21年は1万台、22年は5000台、23年は2000台とジリジリと縮まっている。

中でも奇瑞汽車は地元メーカーと提携しており、エジプトで自動車を生産。生産台数を伸ばしている。BYDもエジプトに組み立て工場があり、タクシー向けなどで販売を増やす。

配車サービス「ウーバー」で運転手を務める30代の男性は奇瑞汽車の車を利用していて「中国車は日本車や欧州車に比べてコストパフォーマンスが良い」などと明かした。

カイロの様子を見る限り、アフリカ全体を中国勢が席巻しているかのように思えるが、実はそうではない。局地的な現象だ。アフリカの自動車市場の中で規模が大きい南アフリカやケニアなどでは、中国勢はそれほど伸びていないからだ。

その要因の一つがアフリカの自動車市場の停滞だ。新型コロナウイルスの感染拡大以降、アフリカの経済はインフレや金利上昇などで伸び悩んでいる。消費者の購買力もそれほど伸びていない。そこに自動車のサプライチェーン(供給網)の混乱が直撃した。供給不足によって新車の販売価格が上がり、大衆層には手が届きにくい商品となってしまった。

都市部では自動車の数が増えるエジプトも全体の新車販売台数は減っている。21年に21万5000台だった新車販売台数(乗用車)は22年には13万4000台、23年には6万9000台まで落ち込んだ。

また新車の価格上昇に伴って中古車の価格も上がっている。アフリカでは中古車も含めて資産という考え方が強い。自国通貨の価値が不安定な中で中古車の需要が高まり、価格が上昇するという現象が起きている。コンサルティング会社のアフリカビジネスパートナーズ(東京・中央)の梅本優香里・代表パートナーは「従来は70万円ぐらいで中古車を買えたが、今は難しい」と語る。

ナイジェリアの最大都市ラゴスではたくさんの中古車が走る。同国ではトヨタが圧倒的なシェアを誇る

アフリカ各国にとって自国内での自動車生産は悲願だ。国内経済に対する自動車生産の影響力は大きく、素材や部品、物流といった様々な企業が集積する可能性があるからだ。多くの雇用も見込める。そのため、アフリカ各国は中古車の輸入に制限をかけて、国内での新車生産に税制優遇などを用意することで海外から自動車メーカーの誘致を進めている。

しかし足元で自動車の需要が伸び悩んでいることから、自動車メーカーは新規投資に踏み込みづらい状況になってしまった。そこで以前から自動車の生産をしているメーカーや新車を輸入しているメーカーがシェアを拡大している。

アフリカ全体で見ると勢力図はまだら模様だ。例えば、南アフリカの新車市場では引き続き、海外から輸入した部品や半製品を組み立てる「ノックダウン方式」で生産しているトヨタがトップ、VWが2位を走る。3位はスズキで小型車の「スイフト」や軽自動車の「ジムニー」が人気で追い上げている。

二輪ではインド勢が躍進

一方、自動車と状況が異なっているのが二輪車市場だ。インドや中国のメーカーの販売が急増しており、市場シェアの過半を占めている。都市化と宅配サービスの利用の増加に伴って二輪車の需要が急増し、コストパフォーマンスの良いインドや中国の二輪車が売れている。

特にインドの二輪大手バジャジ・オートとTVSモーターの躍進が目覚ましい。バジャジ・オートはアフリカの10カ所以上に組み立て工場があり、生産を急速に拡大。販売ネットワークの構築やエンジニアの育成を進めることでアフターサービスも充実させている。消費者からの支持が高く、アフリカの多くの国でトップシェアに上り詰めた。

アフリカビジネスパートナーズの梅本氏は「アフリカの消費者はネットの情報を見比べながら、性能を比較して購入することをあまりしない。最初は価格の安い中国やインドの二輪に半信半疑だったユーザーも、購入した友人・知人の評判を聞いて購入する人が急速に増えている」と話す。

二輪車と同じようなことが自動車市場でも起こり、アフリカ市場でコストパフォーマンスが良い中国車やインド車の販売が伸びる可能性はある。

この数年、アフリカの自動車市場は伸び悩んでいる。それでもアフリカは12億の人口を抱える巨大市場だ。スピードの差こそあれ、今後の市場拡大について疑いの余地はない。そんな中で中国勢は虎視眈々(たんたん)とチャンスをうかがっている。例えば、BYDは23年に南アフリカで電気自動車(EV)の主力多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」を発売した。他のEVの車種も発売する予定で、アフリカでEVに強いというブランドを構築しようとしている。口コミが強いアフリカ市場で先行者が得られるメリットは大きく、日本勢もうかうかしてはいられない。

(日経BPロンドン支局 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2024年3月21日の記事を再構成]

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