スーパーチャージャーにターボチャージャーをドッキング。このW過給でノーマルから一気に約2倍のリッター100馬力となる、110馬力を得たマーチスーパーターボ。考えただけでも凄そうだが、実際はどうなのか? 今から35年前、1989年1月発売時の試乗企画を振り返ってみたい。
※本企画はベストカー1989年3月10日号の記事(執筆は竹平素信氏)から抜粋したものです
文:竹平素信、ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部
■これは現代の理想的なエンジン?
エンジンのパワーアップを図るのに一番いい手段がターボなどを装着する過給方法であることはいまでは常識。排気ガスでタービンを回して、その同軸に設けられたもうひとつのタービンでフレツシュな空気をシリンダーに圧送する、とシステムはいたって簡単ながら、これによるパワーアップはめざましい。
たとえばスバルレガシィは、2LツインカムのNA仕様で150馬力、ターボ仕様になると、なんと220馬力! 一気に70馬力もアップしてしまうのだ。これで驚いては困る。
レーシングエンジンになるとケタはずれのパワーアップで、その究極たるはF1エンジン。1988年までのターボOKの時は1.5Lの排気量で800馬力だの、1000馬力だのと言われていたのだから、これはもう驚くのみ。
しかし、クルマのエンジンに使われている過給器にはもうひとつ”スーパーチャージャー”というのがある。レビン/トレノ、クラウン、マークII系に採用されているからおなじみだろう。コイツは直接エンジンの回転部分から動力を取り出して過給器を回す(大きさはターボより大きめだ)。
ターボは排気ガスのエネルギーを利用するため高回転ほど威力を発揮するが、低回転ではレスポンスが悪く、パワーも低い。スーパーチャージャーになると低中回転で効率よくパワーアップするが、メカニカルロスが高いために高回転は得意ではない。スーパーチャージャーではだいたいこんな違いがある。
だからパワーアップには好材料だが、ウイークポイントもあるわけだ。それではこの2つの過給器を同時に取りつけたら、ターボのウイークポイントをスーバーチャージャーがカバーし、スーパーチャージャーのウイークポイントをターボがカバーしてくれるという。
それは願ってもない理想的なエンジンとなりはしないか。そう、マーチスーパーターボは、この理想のエンジンを積んだ強烈なやつである。
実はこのエンジンは約半年前、ラリー車のベースとして登場したマーチRに積まれているもの。しかし、マーチRはあくまでもコンペティションユースで、月産十数台という少量生産だったため、一般ユーザーにとってはなじみが薄かった。
それが今度のマイナーチェンジでロードカーとして登場したのである。前置きが長くなってしまったが、こいつの強烈な走りのインプレッションをお届けしよう。
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■気分をスカッとさせる強力な加速
まず、注目のエンジンだ。スペックを見てみると、最高出力110ps/6400rpm、最大トルク13.3kgm/4800rpmもある。ターボだけのエンジンが76ps/6000rpm、10.8kgm/4400rpmだから、その差はスーパーチャージャーを追加し、ターボ径アップや細部のチューニングが施してあるかないかだ。すごいパワーアップぶりではないか。
ついでに過給器なしのスタンダードエンジンは52ps/3600rpm、7.6kgm/3600rpm。その差たるや歴然、これぞダブルチャージャーの威力である。しかもこのエンジン、排気量わずか930㏄。過給器係数1.7を掛けて1.6Lアンダーとし、クラスラインを狙うためだ。
動力性能は文句なくすばらしいのひと言だ。わずか770㎏(MT車)のポディを、軽々とそれこそ一気に加速させてしまう。パワーもさることながら、低回転からモリモリ湧きだす強力なトルクがこのクルマの大きなアドバンテージだ。
ポテンザのRE88、175/15R13というというタイヤを履きながらも4000rpmも回してクラッチミートしてやれば、タイヤは激しく悲鳴をあげてしまう。
そのままフル加速し、レブリミット(7000rpm)直前でシフトアップ。このときもクラッチをスパっとつないでやると、もう一発ギュッとタイヤは悲鳴をあげる。
もちろんドライ路でだが、この豪快なダッシュは気分をスカッとさせてくれよう。ダブルチャージャーならではの、強力でフラットなトルクは実に扱いやすい。トランスミッションはマーチRのクロスタイプとは異なるが、つながりに不満を感じず、こまめなシフトワークなしでもワインディングをラクに飛ばすことができる。
ともかく、全域パワーバンドとでもいいたいほどの扱いやすさと、レブリミットまでのしっかり加速してくれるエンジンはごきげんだ。
サスペンションはハイパワーFF車の常で、フロントをメインに相当固められている。しかしフロントにスタビライザーが追加され、バネをターボ車よりソフトにさせている.
このスタビの追加は、エンジンがより強力になりLSDが装着されたとなれば当然のことであるし、ターボ仕様車に設定されていないこと自体が大いに疑間である。
乗り心地は、走りに徹したスポーツ車にしてはかなりよく、低速域でもゴツゴツした硬さはさほど感じなかった。荒れた路面を飛ばしても、上下動の収まりはスムーズだ。ダンパーのよくきいた乗り心地といっておこう。
■ハンドリングに難あり!
しかし、ハンドリングは軽量、小型車らしい、フットワークのよさがまるでなく、ワィンディングを軽快に走ってごきげんな気分に浸る、というのにはほど遠いものだ。
フロントにスタビを与えたのはいいが、こいつがいささか効きすぎのようで、かなり強めのアンダーステアをみせる。ハイパワー車ゆえ、これはこれで高速コーナーやストレートは安定感が高くていいだろう。
が、このクルマでワインディングが軽快でなくしては、いったいなんだろうと思う。しかもステアリングがめっぼう重い。スーパーターボにはハワーステアリング仕様が設定されてないが、これが強めのアンダーステアに加味されて苦労するのだ。
ビスカスの付いたLSD付きのハイパワーFF車だ。パワーステアリングはぜひともほしいしステアリングの応答性もいいとはいえない。とくに低中速付近での遊びが大きく、接地感にリニアリティが乏しいのである。
そんなわけでワインディングでは、ステアリングとの格闘に尽きるといっていい。ボクの腕力でなんとか調教はできたが、女性ではとても無理だろうし、それでもこのステアリングの重さを克服すれば、豪快にワインディングを攻めることができる。
ヒルダウンはサニー系ツインカムと同サイズのディスクブレーキのおかげで、思い切ってブレーキングできるし、ヒルクライムはダブルチャージャーの強力なエンジンを駆使すれば爽快に上っていく。
マーチ自体は発売以来すでに6年以上のモデルである。途中でターボは仕様が追加され、今回さらにスーハーターボが追加された。ボディにしろ、サスベンションにしろ、ステアリング系にしてももとは変わっていない。
スーパーターボの強烈な走りを受けとめるだけのキャバシティはないと思うのだからこれでいいというわけではないが、日本で初めて、世界でもまれな強烈なスーバーターボエンジンを積むだけに、もう少しファンなドライビングが演出できるよう手を加えてほしかった。
それにしてもなんとも強烈なスーパーターボであった。実をいうとこのボクはマーチRで今年のラリーを戦うことになった。
ラリー仕様だけにバネ、ダンパー、スタビライザー、ブッシュ類に手を加えることができるが、上手なセッティングを施してチャンピオンを狙いたいと、気合いが入っている今日このごろである。もちろん、腕カアップのトレーニングは欠せない。
ちなみに1989年3月26日号では谷田部テストコースでタイム計測を敢行。0~400m加速は15秒65と1.6Lターボエンジン並みのタイムを記録。これはランサーGSRの15秒51、レビンGT-ZXの15秒67だからその速さがわかるというもの。スターレットターボ
最高速度計測だが、大径ターボを使っているだけに高速域に入ってもスピードは衰えず、188.90㎞/hを記録。1.3LターボのEP71スターレットターボの0~400m加速は15秒28、最高速度は182.90㎞/h。
■これ以上のじゃじゃ馬は現代には存在しない?
発売当時のマーチスーパーターボに試乗したが、覚えているのは、スーパーチャージャーからターボヘのつながりもよく、シフトアップしても過給圧が落ち込むこともなかったこと。5速MTと標準装備のビスカス式LSDを介しての走りはまさに“じゃじゃ馬”だった。
こんなクルマはほかにあったっけと、1990年代、2000年代、2010年代、そして2020年代を振り返ってみた。EP71スタタボ、ミラージュサイボーグ、フィアットウーノターボアバルト、ルーテシアRS、アフィアット500アバルト……、う~んなんか違うな。
マーチスーパーターボ以上のクルマは、ほかにないかなと思ったが、GRヤリスが唯一、マーチスーパーターボを超える存在か。アクセルをベタ踏みしていった時の体感的な速さ、加速フィールはGRヤリスのほうが勝っている。とはいえ、値段が違い過ぎるし、改良型GRヤリスはいまや304psだから比べるクルマじゃない……。
で、現在、マーチスーパーターボは買えるのか? 大手中古車検索サイトでマーチスーパーターボの在庫を探したが2台しか流通していなかった。車両本体価格は130万円と、254万円。254万円のほうは5.8万kmでエンジンオーバーホール済みの個体だった。かろうじて生き残っている程度だが、機会があればまた乗ってみたい!
■マーチスーパーターボ主要諸元表
ボディサイズ:全長3735×全幅1590×全高1395mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:770kg
エンジン型式:MA09ERT
エンジン形式:直4SOHC+スーパーチャージャーターボ+ターボ
排気量:930cc
最高出力:110ps/6400rpm
最大トルク:13.3kgm/4800rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
タイヤサイズ:175/65R13
価格:130万8000円
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