いすゞ自動車は7月24日、2017年の法改正で運転可能なクルマが総重量3.5トンに限定された現行普通免許でも運転できる新商品『エルフmio(ミオ)』を発表した。ディーゼルエンジン搭載で総重量3.5トンに収まる商用トラックは国内初。


◆“普通免許でも運転できるトラック”の作り込み

開発動機は俗に「2024年問題」と呼ばれる人手不足に悩む運送会社の潜在的要望に応えるため。

「開発前から確定受注を得ていたわけでも何でもありませんが、陸運業界からは準中型を運転できない2017年以降の普通免許でも運転できるトラックが欲しいという声を多数いただいていました」

エルフミオの開発に従事したエンジニアは語る。

「インターネット通販の普及でエリア限定の戸口配送の需要は増大する一方であるのに対して人手は足りない。それをカバーするには学生さんや女性の方々などを含め、トラックに乗ったことのない人材にアルバイト、パートタイマーとして働いてもらえるようなトラックが必要とされています。エルフミオはそのことを踏まえ、単に総重量を3.5トン以内に収めるだけでなく、シートポジション、視界、動力性能、乗り心地、運転支援システムなど、さまざまな部分を乗用車に似た感覚で運転していただけるよう作り込みました」

いすゞ エルフミオ

ディーゼルエンジン搭載で総重量3.5トン以内に収めるには同社の中型トラック『エルフ』に対して200kgの重量削減を行う必要があったという。が、トラックに求められる堅牢性、耐久性と軽量化はトレードオフとなる要素で、両立は簡単ではない。そのためにまずエンジンを小型トラック用の主力である3リットルターボ「4JZ1」からピックアップトラック用1.9リットルターボ「RZ4E」に変更。ピックアップトラックでは最高出力150馬力で運用されるところを120馬力に抑えるなどして、低粘度オイルを使用しながらオイル交換のインターバル2万kmを確保することができたという。

いすゞ エルフミオのディーゼルエンジン

「もちろんそれだけでは足りません。車体のほうも軽量化を図りました。軽くして同じ強度を出すことはできませんが、荷物を積んだときに前後軸の重量配分がなるべく均等になるようにするなど、車体への負荷の分散、均等化を徹底しました。またエリア配送のトラックの月間走行距離は意外に短く、2000km以内が85%くらい。それを前提に耐久性について重整備を必要とするまでの距離はエルフより短い25万~30万kmを想定。そこで消耗した部品を交換し、走り続けるというイメージです」(いすゞのエンジニア)

いすゞ エルフミオ(右:シングルキャブ、左:スペースキャブ)

◆ディーゼルトラックとしてはかつてない静けさ

そんな成り立ちのエルフミオ、実際のドライブフィールは果たしてどのようなものなのか。短い距離ながら試走する機会があった。

まず驚かされたのは、乗車ポイントに接近してくるエルフミオの社外騒音の小ささだ。音量自体がきわめて小さいうえ、「カラカラカラ…」というディーゼル特有のノック音がほとんどない。ディーゼルトラックとしてはかつてない静けさだった。

運転台に乗り込む。座面の高さは準中型のエルフより明らかに低い。といってもAピラーのグリップを握って乗り込むくらいの高さではあるのだが、乗用車で言えば大型クロスカントリー4×4と大差ないレベルだ。

コクピットの着座感覚や操舵感覚はさすがに普通の乗用車と同様というわけにはいかない。ステアリングシャフトを両ひざで挟むように座り、水平方向に大きく倒れたハンドルを操作するという点はトラックそのものだ。

いすゞ エルフミオ(シングルキャブ)

◆昔の2トントラックとは別物の乗り心地

2名乗車でいよいよ発進。荷台に積まれているのは500kgのバラスト。最大積載量には遠く及ばないが、それでも総重量2.7トンはある計算になる。それを120馬力のディーゼルエンジンで動かすのだからさすがに重さを感じるだろう…と考えてスロットルペダルを深く踏み込むと、エルフミオは予想とは裏腹に猛然とダッシュした。6速ATの1速、2速がかなりのローギヤードで、パワーが小さくとも満載状態でしっかりと走るだけの駆動力を発揮できるようになっているのだ。

あっという間に車速は60km/hに達し、しばし巡航。試走したのはいすゞ藤沢工場の短いコースだったが、舗装の老朽化がかなり進んでおり路面はガタガタ。そこでの乗り心地は昔の2トントラックとは別物で、ガタガタという振動はほとんど発生せず、乗用車のように滑らかかつ静かに走った。

いすゞ エルフミオ(シングルキャブ)

後半は80km/hクルーズ。そこではわざと車線に寄るステージがあった。車線は設備の老朽化でかなりかすれた状態だったが、しっかりとした警報音が鳴り響いた。エルフミオにはステレオカメラセンサーの安全システムが装備されている。ステアリング介入型ではないが、事故防止には十分寄与しそうだった。

短距離試走を終えた印象は、これを乗用車と同じというのはいくら何でも無理があるというもの。トヨタ『ハイエース』や日産『キャラバン』など、キャブオーバータイプのバンに近い。

それでも乗用車からトラックへの移行は準中型以上に比べると格段に容易であろうことは間違いない。ちょっと運転すればすぐ慣れるだろうというのが実感だった。いすゞの顧客の運送会社の中には、エルフミオがリリースされたあかつきには“トラック入門車”に位置づけ、慣れたら中大型にステップアップさせるというサイクルを作りたいという考えを示すところもあったという。

トラック未経験のドライバーをアルバイト、パートで集めるという観点でも、普通免許で乗ることができ、運転は準中型に比べて簡単、そしてシートのタッチが良く乗り心地も快適というエルフミオ誕生の意義は決して小さくないだろう。

いすゞ エルフミオ(シングルキャブ)

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