今年の東京オートサロンで話題を集めたシビックRS。ついにそのプロトタイプに試乗できる時が来た! トランスミッションはなんとMTのみ。しかもエンジンは今どき貴重なガソリンVTECターボで推定200psオーバー。こりゃもうタイプR要らないんじゃね?
文:松田秀士/写真:小林岳夫
■初代RSからなんと50年ぶりの復活!
S2000の製造が終了し、S660も終わったホンダ。軽自動車とコンパクトミニバンだけが隆盛を継続中な印象が世の中一般。なのにF1は敵なしといった技術力もいまだ健在。いったいホンダはどういうメーカーを目指しているのだろう?と、常にボクは考えている。
そんなとき、シビックにRSがラインナップされるという知らせ。試乗会場となる伊豆は修善寺のサイクルスポーツセンターに向かった。
シビックRS? ボクら古いクルマ好き(69歳)にとっては若かりし頃憧れのスポーツモデルだった。1974年に登場し、1.2Lの4気筒SOHCにツインキャブで76ps。今でこそなんてことはないスペックだが、100psカーが夢の時代。軽量なボディとFFという駆動方式は、レースの世界でも110サニーなどとデッドヒートを繰り広げて若者に人気だったのだ。
そんな話をするとRSとは「レーシング・スポーツ」の略かと思われるだろうが、実は「ロード・セーリング(道を帆を張ったように走ること)」が正解。マスキー法を満たしたCVCCエンジンをつくったホンダだけあり、レーシングという過激な印象は、当時の日本の社会事情にも配慮したかったようだ。
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■パワーは推定で200psをオーバー!
では50年ぶりの復活といわれるシビックRSはどのような位置づけかというと、ベースとなるガソリンモデルとタイプRの中間的な存在。なるほど現在もロード・セーリングなんだ、と納得する。
しかしMT専用モデルだ。これはシビック5ドアのガソリンモデルにMT比率がここ最近高まっているためだという。特に20-30代の若者層でその傾向が顕著なのだそうだ。もちろんそこにはタイプRの存在があるのだが、ベースモデル以上タイプR未満を狙ったRSの投入とみてよさそうだ。
ではそのRS、このようなターゲット層を満たせるモデルに仕上がっているのだろうか? そのスペックから見てみよう。
エンジンは、ベースとなる1.5Lガソリンターボエンジンをそのまま搭載するが、パワーは推定で203psまでチューンされている(北米のシビックSiと同程度か?)。ただし取り回しも含めて重要視されているのは中速域のトルク特性だ。
■フライホイールの軽量化でソフトダウンが超楽しい!
それ以外にも様々な技術が投入されているので紹介しよう。まずフライホイールがシングルプレートとなり軽量化されている。
従来はツインプレートとしてジャダー(振動)などを軽減するスプリングを挟み込む構造だったものを、シングルにすることで約5㎏の軽量化(-23%)。30%の慣性モーメントのダウンを実現している。
実はホンダ車のMTによく見られたのが、トップエンドまで回してシフトアップしたときにエンジン回転が落ち切らず、クラッチを繋いだ瞬間に意図せぬ加速が伴いギクシャクすること。シフトダウンの場面でも、ヒール&トゥの回転合わせに苦労することもあった。
今回のフライホイールの軽量化は、レーシングエンジンのように鋭い回転落ちを実現することが目的だ。
これに伴いタイプRに採用されているヒール&トゥをしなくてもエンジン回転を自動で同期してくれるレブマッチシステムが採用された。このシステムは解除することも可能で、システムが有効な時もドライバーがヒール&トゥを行った場合にはそのタイミングだけ解除される。
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■足回りはよりしなやかで最後に踏ん張る!
サスペンションでは、スプリング&スタビライザーの剛性をアップ、ロール剛性を11%アップさせている。これによりライドハイト(最低地上高)は5mmダウンした。
ダンパーはタイプRではザックス社製の減衰力可変ダンパーが採用されているが、RSではショウワ製の、ダンパー径がアップされたものを採用している。入力初期と微低速時の応答性をアップさせることが狙いだ。
加えてコンプライアンスブッシュを従来の液封(乗り心地重視)からソリッドラバーに変更し、剛性を80%アップ。この変更箇所はフロントのロワアーム後ろ側と、リヤのトレーリングアーム前側だ。
ステアリングシャフトのトーションバーレートも、60%アップしてステアリング応答を高めている。ブレーキではフロントのディスク径を15⇒16インチに大径化(有効径6%アップ/熱容量14%アップ)。ブレーキパッドも面積/熱容量が17%アップされた。
目的は峠やサーキット走行での熱対策だが、現行モデルに対して温度上昇を約10%低減できたのだという。さらにブレーキ踏力も最適化されたというから、これは試乗して試してみよう。
■タイプRのレブマッチシステムを採用! 回転合わせはクルマ任せ!
ドライブモードだが基準車にはエコとノーマルがあったが、RSではこれにスポーツモードが追加されている。エンジン出力はより強化され、ステアリングフィールもダイレクトに、そしてメーターパネルの表示がスポーティーなものになる。
走り始めてまず感じられるのが、ステアリングフィールのダイレクト感。転舵した瞬間にフロントタイヤの面圧が上がってゆくプロセスをしっかり感じ取れる。攻め込んでいくに従って限界領域が分かりやすい。さらにスムーズさが印象的だが、クイックステアにもしっかり対応するから剛性強化の効果は実感できる。
MTのシフトはストロークと重さがちょうどよく、クラッチペダルの重さとストロークもシフトにマッチした設定になっているのでシフトが楽しい。
レブマッチシステムはとても賢く、フライホイール軽量化によって確かに回転落ちが速くなっているからヒール&トゥなどしなくてもスパッとダウンシフトが決まる。敢えてヒール&トゥも試してみたが、回転落ちが速いのでポルシェのように素早く決まる。
そのエンジンだが6500rpmでリミッターが作動。この高回転域のレスポンスも良く、特に中速域のトルク感もなかなかのもの。
■これぞ現代のMT車のお手本だ!
サイクルスポーツセンターは自転車専用コースだが、あちこちに微妙なアンジュレーションや道路の繋目などがあり、鏡面のようなスムーズなサーフェースではない。そのため乗り心地を心配していたのだが、細かい突き上げなどいわゆるハーシュは想像していたほどではない。
たしかにスプリングレートやブッシュを固めたスポーティーさは感じられるが、シートの減衰性も良く、かといってシートホールディングも良いので気にならない。とはいえ後席試乗はできなかったのでそこは未知数だ。
コーナリングでのロール感は少ないが、これはダンパーの伸び側の減衰力が強化されていて、ロールスピードが抑えられているから感じること。実際にはそれなりにロールしている。
このようなセッティングはレースでもよく行ったが、コーナーイン側のタイヤにより長い時間荷重を残すことで、タイヤのグリップを最大限活用することが目的なのだ。ちなみにタイヤはグッドイヤー イーグルF1が装着されていた。
インテリアでは赤のピンストライプとシートとステアリングに赤のステッチ。エクステリアでは各所にRS専用のブラック加飾が施され前後にはRSの赤いエンブレムが眩しく光る。
MT車の楽しさをしっかりと具現したモデルとして、シビックRSは実に頼もしい存在だった。
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