バス運転士不足問題は根本的な解決を見ないまま2024年問題もからんでもう半年が過ぎてしまった。現在、どこの事業者も地域もすぐにでも運転士が欲しいところだろうが、大型の輸送案件として差し迫っているのが万博の輸送だ。雇用条件から問題点を見てみよう。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージであり本文とは直接関係ありません)

■短期でも長期でもOKな幅広い採用

まだ市営カラーも多く残る大阪シティバス

 2025年に開催予定の大阪・関西万博では最寄駅からの乗客輸送や、会場内での移動の用に供するバスが必要だが、ここでもやはり運転士が不足している。もちろん、事業者も絶賛募集中なのだがなかなか集まらないようだ。そこで万博輸送にともなう雇用条件をみてみた。

深夜まで輸送は続く

 雇用する企業は大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)で、これは公営時代の大阪市交通局が民営化されたものである。正社員として万博後も運転士として働くこともできるし、契約社員として短期、万博期間中だけの運転士でもいいようだ。正社員も契約社員も2025年1月からの雇用で、契約社員の契約期間は万博終了後の10月末まで。

 万博輸送で運転する車両はEV車で、駅や駐車場から万博会場までの送迎輸送か、会場内での移動輸送に従事する。正社員は万博終了後はそのまま路線バス運転士として採用されるようだ。

■雇用形態は厳密には3種

万博輸送は入り口の問題?

 正社員は65歳未満に限られ、65歳以上は臨時社員となる。他に万博期間中のみの契約社員で3種の雇用形態がある。気になる給与は雇用の区分にかかわらず月額300​,000​円に上限50000円の通勤交通費で、残業代は別途支給される。

 勤務地は万博期間中に輸送を担当する酉島営業所または港営業所等で、その後、正社員と臨時社員は大阪市内か周辺の営業所に配属される。

■問題の勤務時間は?

実働8時間に残業が加わる

 勤務時間は路線バスなのでシフト制だが、6時から24時​の間で、休憩は60​分。残業時間は概ね8​時間で、月平均は22​時間程度とされる。いずれのシフトでも実働8時間で6時-15時、11時-20時、15時-24時の例により勤務する。

 主な待遇としては、社会保険・交通費支給・勤務地までの通勤時間が2​時間以上(概ね50​km以上)の場合は大阪市内の新築マンションを借上社宅として利用可能で、家具と家電は完備され万博期間の家賃は無料。ただし光熱費は入居者負担だ。

■経験不問だが…

経験はなくてもOkだが免許は必要!

 応募の条件はさすがに時間的余裕がないことから、大型第二種免許か大型第一種免許を持っていることで、大型第一種免許のみの場合は、2024​年12​月末までに大型第二種免許取得が必須だ。ただし、免許取得費用は万博終了後に上限30万円までの実費が支給される。

渋滞も予想される万博輸送

 免許さえあれば経験は不問なので、間口は広いと言えそうだがハードルがないわけではない。大型一種免許を持っていても自分で二種免許を取得する費用や時間的な問題は自分で解決する必要がある。

 今ではバス事業者に就職すると、免許取得にかかる期間も雇用期間中として何かしらの給与が支給されるのが主流だからである。

■輸送が滞れば万博失敗するのか?

超満員が予想される万博輸送

 大きな国際的イベントで会場に鉄道が直結するわけではなく、最寄りのターミナルや離れた駐車場からの輸送はバスに頼るしかない。そのバス輸送が運転士不足で滞れば来場者が会場にたどり着けないという大変な事態になるのかもしれない。

 そうならないためにも、民営化する際にひと悶着あったかもしれないが、破格の待遇で運転士を確保するしかないだろう。民営化してしまったので、簡単ではないのかもしれないが万博が世界の笑いものにならないためにも、パビリオンの前に来場者輸送という入り口の問題を解決する必要がある。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。