10月2日から4日までの3日間にわたり幕張メッセで「SMART GRID EXPO【秋】~第16回 [国際]スマートグリッド展~」が開催される。同展は次世代電力システム構築のための専門展で、VPP(バーチャルパワープラント)・DR(ディマンドレスポンス)、蓄電池、充電インフラなどの最新技術が一堂に会する。技術展示はもとより、電力会社を始め自動車メーカーなどの業界トップや、政府関係者らが登壇する講演や専門セミナーも見どころ、聞きどころとなっている。

10月4日に行われる特別講演では「EVとグリッドの融合を見据えたこれからの社会」をテーマとし、東京電力パワーグリッド 取締役 副社長執行役員 最高技術責任者の岡本浩氏、本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの岩田和之氏、ユビ電 代表取締役社長の山口典男氏によるパネルディスカッションが行われる。

特別講演を前に、レスポンスでは東京電力パワーグリッドの岡本副社長と本田技術研究所の岩田エグゼクティブチーフエンジニアによるプレ対談を実施。持続可能なエネルギー社会実現に向けた課題は何なのか、次世代電力網とEVの組み合わせはどのような可能性を秘めているのか、話を伺った。

電力の需供バランスを整え「上手く使ってもらう」

---:電力エネルギーマネジメントの重要性や再生可能エネルギー活用の課題をどう捉えていますか。

岡本浩氏(以下敬称略):電気の需要と供給は、基本的には生産と消費のバランスが常に取れていなければならないが、そこを合わせるのが大変になってきている。日々課題が増えているのが現状。なぜそうなるかというと、実は再生可能エネルギーというのは使用する側の電力消費とあまり関係なく発生しているからだ。例えば太陽光エネルギーで言うと、天気が良ければ目一杯発電してしまうなど、実際に使用される電力の量を大きく超えてしまう。逆に、冬の寒い日に電気が欲しいと思っても雪が降ったら太陽光発電ができないというようなことがあって、必要な時に足りないというケースも発生している。

それをどう上手い具合に合わせましょうかというエネルギーマネジメントが大きな課題で、できるだけ上手く使っていただくことが重要だと考えている。

---:そうした傾向はいつ頃から顕著になったのでしょうか。また、地域差はありますか。

岡本:やはり実感するようになってきたのはここ数年。地域によって若干の差はあるが、総じて不足や余剰の問題は発生していて、再生可能エネルギーの電気は特に春と秋に余りがちになる。このため太陽光発電の設備を持つ顧客に、ある一定の時間帯に発電を止めてもらう必要性も生じていて、東京電力はまだそこまではいっていないが他の電力会社ではすでに出力制御が始まっている。

例えば九州電力の場合は太陽光の電力が多いのでどうしても余る率が大きくなってしまい、それに応じて出力制御がかかる頻度も増えている。このように一部地域差はあるが、基本的には全国的な傾向と言える。

東京電力パワーグリッド 取締役 副社長執行役員 最高技術責任者の岡本浩氏

---:顧客に電気を上手く使ってもらうには、どのような方法があるのでしょうか。

岡本:多くの家庭は昼間に大体外出していて、それほど電気を使わない。太陽光は正午を中心に発電するので、基本的には余るだけになってしまう。かつてFIT(固定価格買取制度)があった時は(発電した電気を)高く売れば良かったが、FITが終了して自家消費せざるを得ないとなると、太陽光の発電に合わせて需要側をシフトすることが必要になる。例えば電気自動車(EV)への充電もひとつの有効な手段だ。

岩田和之氏(以下敬称略):EVへの公共充電ということでは、一旦ESS(電力貯蔵システム)に貯めておいた太陽光発電の余剰電力をEVへ充電すると、実は充放電往復で現状では2割くらい貴重な再生可能エネルギーを捨ててしまうことになる。そこをやはり何とかしなければいけないと思っていて、岡本さんともたまに話すが、私個人的にはV2G(Vehicle to Grid)ではなくV1G(V one G)、一方通行で十分ではないかと思う。

EVは必ずどこかで充電しなければならない。だが例えば都内で好き勝手に充電、特に放電する場合、放電時のロスで熱が生まれてしまうので、EVの台数が今後増えていくとヒートアイランドを促進し環境に悪影響を与えることになりかねない。

岡本:V1Gという発想は、私も同じ。V2H(Vehicle to Home)ができるなら、グリッドに(電気を)戻す必要はあまりない。戻そうとすると実は色々と我々の方も気を使わなくてはいけないことが増えて、装置にかけるコストも高くなる。

電車で通勤している人なら昼間はEVが自宅に停まったままになっているので、太陽光で発電した電気を一度EVの電池にためておいて、夜間にそれを自宅で使えば自家消費率が上がる。そうすれば、バッテリー(家庭用蓄電池)を改めて買う必要もなくなる。私はこのパターンに期待をしている。

岩田:電気を効率的に使うためには電池の稼働率を上げるべきだと考えている。自家用車は1日のほとんどの時間、駐車されたままになっていて役に立っていないというのが現状のガソリン車で、EVだったら太陽光パネルと組み合わせれば電力貯蔵ができるということを、世の中の人の大部分がまだ知らない。

本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの岩田和之氏

岡本:V2Hのコストがもう少し下がってくれば、その方法はかなり一般的になるのではないか。また、EVはバッテリーを積んでいるので、車両価格自体はどうしてもガソリン車よりも高い。しかし定置式のバッテリーと比べると車載バッテリーは、台数も出ているのではるかに安い。しかも、ユーザーはバッテリーを買ったという意識はなく、クルマを買ったということにまず満足している。さらに蓄電用にも使えるので、その方が合理的と言える。

岩田:車の形にすると安く捉えられてしまって、なぜか家庭用のESSだと高い価格で受け入れられる。10年くらい前、超小型EV開発の陣頭指揮を執っていたことがあるが、いくらなら買うかと尋ねるとどこに行っても「80万~100万円」と言われた。一方、当時同じ容量の家庭用ESSは140万円くらいで売っていて、ハンドルもタイヤもついていて移動もできるのにこちら(超小型EV)の方が安く見られてしまっていた。

それは既に軽自動車という存在や相場があって、車としての価値観だけで考えてしまうからだろう。電池として見ると安いのにそこに行き着かないのは、まだまだ啓発が必要。実際これが経済合理性を生めば理解進むと思うし、今後太陽光発電が増えていくとやはりそういうことをきちんと考えていかなければならない。

課題解決のカギは“データ活用”と“共創”

---:両者共通の課題はコスト低減や経済合理性の認知拡大、電池の稼働率を上げて電力のロスをなくすと共に使いやすくするということになりますが、東京電力としてはそうした部分についてデータを使いコントロールすることも想定していますか。

岡本:まさにデータはすごく大切なものと考えている。東京電力は子会社を通じてバッテリーのライフサイクルマネジメントに取り組んでいて、一回使ったバッテリーを分解して再度組み合わせて、上手くバランスが取れればまた長く使うことができるので、そういった再利用をしようとしている。ただ、そのように使おうとするとバッテリーの履歴が必要で、残っていない場合は難しい。

一方で、我々グリッド事業者からすると、常時だけでなくて非常時もバッテリーが使えないといけない。2019年に千葉県を襲った台風で大規模な停電が起きた時、自動車メーカーからEVを提供してもらってそれで電気を届けたが、非常に役に立った。

当時はまだEVの台数は限定的だったが、今後さらに普及していくことも鑑み、被災地の周辺にあるEVのバッテリーに電気がどれくらい残っているのかといったことも我々としてはある程度推定できるようにしたいと考えている。

大体でも推計できれば、このエリアには実はこれくらいの電気が残っているといった状況がわかるため、災害復旧の際に重要な情報になる。今は電線が切れて電気が供給できなくなった被災地に、ディーゼル発電機を積んだ車両を送っているが、残っている電気の量がわかっていれば発電車両の代わりにEVが行けば良いということになる。できるだけ地理的な分布の中でどれくらいバッテリーに電気が残っているのか掴みたいし、また道路の被害状況もあわせて集めれば最適なオペレーションができ非常時に役に立つ。

岩田:災害時にどの道が通れるかについては、ホンダも『Hondaドライブデータサービス』の走行可能ルートデータを使って情報提供している。東日本大震災や千葉を襲った台風の時、今年元旦の能登半島地震でもそうだが、確かに走行可能ルートは提示したものの、実はクルマは通れないがバイクなら通れるという情報は提供していない。オートバイであれば充電した可搬式バッテリーを運べるケースもたくさんあるのではないかと考えている。

電気は運べないと思っている人が多いが、EVや可搬式バッテリーを使えば実は運ぶことができる。トラックは行けなくても乗用車なら行ける。その先はバイクなら行ける、というような細かい情報が提供できればさらなる対策が可能だ。弊社では四輪EVだけではなく、商用車や二輪車、三輪車などでも再エネを上手く使えるようにした可搬式着脱バッテリー「Hondaモバイルパワーパックe」も展開している。

電気が無いと何もできない世の中になっているので、そのためには国としても動く必要があると思う。自動車メーカーはSOC(充電状態)やSOH(バッテリー劣化状態)のデータを公開したがらないが、インターナビの走行可能ルートを提供したように、災害時だけは少なくともSOCを提供する、といった仕組みづくりも急務と言える。

だからこれはコンペティションの“競争”ではなくて、コラボレーションの“共創”。やはりEVになるとそういう部分は企業の垣根を越えて、一緒にやっていくべきだと思う。

可搬式着脱バッテリー「Hondaモバイルパワーパックe」。商用車や二輪車、ポータブル電源など様々な用途に対応している

必要なのは「足し算ではない世界」、業界を越えて化学反応を

---:最後に「SMART GRID EXPO【秋】~第16回 [国際]スマートグリッド展~」特別講演に向け、参加者へのメッセージをお願いします。

岡本:「EVとグリッドの融合を見据えたこれからの社会」を実現していくためには、やはり今までの考え方を変えなくてはいけない。私や岩田さんは元々技術者なので、まずは色々やってみると面白いのではないか、という考えや本音が根本にある。ただ、実際に顧客に使ってもらわないと仕方がない。今はもう少しのところで、EVやバッテリーの価格も下がってきてはいるがまだ高い。しかし、そこを工夫すれば乗り越えられるというところまできていると思う。

新しい技術の普及はハイプ・サイクルとも言われていて、まさにEVは、なかなか最初は普及せず何かのきっかけで一気に普及するかと考えられていたものの、やはり難しい…という状況に今ある。いずれそれが過ぎると健全な成長に向かうので、おそらくそういうカーブにこれから入っていくのではないかと思っていて、その時に使い方の工夫やデータをどう使うかということも大きなカギになるだろう。

---:パネルディスカッションにはユビ電の山口社長も登壇されますね。

岡本:山口さんはIT、キャリア出身の方なので、どちらかというとデータとか、どうコネクトしていくかとか、課金をどうするかといった見方をされる。山口さんも含めて3人で話をすると、それぞれの視点が合わさって随分面白いことができそうだということが伝わるのではないかと思う。

岩田:「足し算ではない世界」を創らないともう駄目な状況。ガソリンエンジン時代には全く接点がないのが基本だった電力会社と自動車メーカーが、従来通り個別に自分たちの事業をするのではなく、ユビ電のようなEV充電インフラ事業者も含めて、一緒にやっていく必要がある。簡単に言うと、酸素と水素はそれぞれ全く違うものなのに化学反応を起こすと水という全く違うものになるというような、そういう世界観をやはり既存の業界を超えてつくらないと、EVは正常進化の方向になかなかいかないと思う。

「電力会社は電力会社、自動車メーカーは自動車メーカー」のままでは、キャズム(裂け目)に落ちる。でもこれは落としてはいけないと思う。なぜかというと目的は再生エネルギーの拡大で、絶対にやらないといけないことだから。やはり業界という構造自体が変わらなければいけない。

岡本:業界をいかに横断して面白いものができるかというのが重要で、その達成を目指さなければならない。当日はその未来に向けて、話をしていきたい。

東京電力パワーグリッド 取締役 副社長執行役員 最高技術責任者の岡本浩氏(左)と、本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの岩田和之氏(右)本講演の詳細・申込はこちら

■SMART GRID EXPO【秋】~第16回 [国際]スマートグリッド展~
会期:2024年10月2日(水)~4日(金)10時~17時
会場:幕張メッセ
主催:RX Japan 株式会社
※8月9日現在。最新情報は展示会HPをご確認ください

SMART GRID EXPO スマートグリッド展 公式HPSMART GRID EXPO スマートグリッド展 来場事前登録はこちら【無料】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。