ユーロNCAPによる史上初の大型トラック安全性能評価「トラック・セーフ」プログラムは、2024年11月20日に結果が発表された。ここでは評価対象となった7メーカー9モデル全ての結果をお伝えする。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/DAF Trucks, IVECO Group, MAN Truck & Bus, Daimler Truck AG, Renault Trucks, Scania CV AB, AB Volvo
史上初めて大型トラックを対象に行なわれた「NCAP」安全性能評価
自動車の安全性能を評価する新車アセスメントプログラム「NCAP」は乗用車ではメーカーの開発方針にも影響を与えているが、その商用車への拡大を進めているユーロNCAP(欧州)は、史上初の大型トラック安全性能評価「トラック・セーフ」プログラムを実施し、2024年11月20日にその結果を公表した。
ここでは欧州7メーカー、9モデルのすべての結果をお伝えする。ボルボやスカニアなどのトラックは日本でも公道を走っており、その安全性は日本の消費者とも無関係ではないし、同プログラムが今後のトラック開発に影響を与える可能性もある。
視界などの「安全運転」と自動ブレーキなどの「衝突回避」、事故後の「レスキュー」についてパーセンテージで評価が行なわれた(ただしレスキューは各車同点のようだ)。また、都市部での走行を考慮した機能・技術を搭載するトラックには「シティ・セーフ」認定が与えられた。
評価対象の9モデルは大部分が長距離輸送用の大型トラクタでハイウェイ走行を基本としているが、ボルボ「FM」とスカニア「G」シリーズは汎用モデルで、都市部での走行も考慮されている。
評価は車両の直接的な安全性能に関するものだが、長距離用のトラックは、例えばキャブ内の広大なスペースなどを通じてドライバーの疲労軽減を図り、間接的に安全性向上に貢献していることには留意する必要があるだろう。
ドライバーの直接視界はもちろん、カメラモニターシステム(CMS)による間接視界、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)などの先進運転支援システム(ADAS)なども評価され、こうした機能が標準搭載かオプションかという点も重要。
なお、欧州では2024年後半より新安全規則「GSR2」が大型車にも適用開始され、一部の安全機能は新型車では法規により義務化されているが、ユーロNCAPで高評価を得るには法規対応(義務的安全装備)よりはるかに高い水準が求められる。
DAF「XF」
評価:★★★☆☆ (3つ星)
シティ・セーフ:認定
安全運転:85%
衝突回避:35%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: フラットフロアの長距離用トラックとしてはクラス最高水準の安全運転性能を達成している。フロントウィンドウ、ベルトラインとドアウィンドウの低さ、ミラーに代わるCMSなど、視界に関してはクラストップだ。車両前後の衝突と歩行者・自転車との正面衝突に対して自動ブレーキは控え目ながら効果を発揮し、総合で3つ星とシティ・セーフ認定を獲得した。都市部を走行する可能性がある長距離トラックとして最適な選択肢だ。
イヴェコ「S-WAY」
評価:★☆☆☆☆ (1つ星)
シティ・セーフ:非認定
安全運転:32%
衝突回避:19%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: イヴェコは試験用の車両提供を辞退したため、ユーロNCAPは市場で入手可能な最新車両により試験を実施した。メーカーは、この車両が最新世代の安全性能を代表するものではないと指摘しているが、評価時点で同社のGSR2対応型安全システムは市場では入手できなかった。S-WAYの直接視界は悪く、ユーロNCAPが評価するADAS機能もほとんど搭載されないため、残念ながら1つ星という結果となった。
MAN「TGX」
評価:★★★☆☆ (3つ星)
シティ・セーフ:非認定
安全運転:56%
衝突回避:60%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: MANは試験車両の提供を辞退したため、安全オプションを全て備え、市場で入手可能なGSR2対応モデルにより試験を実施した。TGXは安全運転と衝突回避のバランスが取れており、堅実な3つ星評価となった。直接視界が悪く評価では0点だったが、オプションのCMSが非常に優秀でドライバーの視界を補っている。車線サポートシステムにより衝突回避にも優れている。
メルセデス・ベンツ「アクトロスL」
評価:★★★☆☆ (3つ星)
シティ・セーフ:非認定
安全運転:72%
衝突回避:51%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: ダイムラー・トラックは試験車両の提供を辞退したため、ユーロNCAPは2024年7月登録の最新型車両により試験を行なった。メーカーは2024年後半より利用可能になる最新の安全システムに対応したものではないと指摘している。総合評価は3つ星だった。試験車両のなかでもっとも車高が高いが、CMSにより安全運転スコアは高い。様々な衝突回避技術を搭載しているものの、こうした機能の一部は効果が限定的だ。
ルノー・トラックス「T」
評価:★★★★☆ (4つ星)
シティ・セーフ:非認定
安全運転:72%
衝突回避:70%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: ルノー・トラックスの「T」は4つ星という素晴らしい評価となった。大部分が標準搭載となるADAS機能の品質が高く、安全運転と衝突回避のバランスが取れている。直接視界が優れているわけではないが、CMSがもたらす間接視界により安全運転スコアが向上している。対自転車用の機能も高スコアに貢献している。直接視界を考えると、市街地よりハイウェイ向けの車両といえる。
スカニア「R」シリーズ
評価:★★★☆☆ (3つ星)
シティ・セーフ:非認定
安全運転:64%
衝突回避:62%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: スカニアのRシリーズではユーロNCAPが評価の対象とするほぼ全てのドライバー支援機能が利用可能で、有効に機能している。しかしながら、その多くはコストのかかるオプションだ。視界は優れているが、CMSが利用できず従来型のミラーに限られる。ADASのパフォーマンスもほとんどの領域で良好だが、交通弱者を保護する一部の機能が欠けている。適切なオプションを選択することで、ハイウェイでの運用に適したものとなる。
スカニア「G」シリーズ
評価:★★★★☆ (4つ星)
シティ・セーフ:認定
安全運転:71%
衝突回避:62%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: スカニアのGシリーズは、Rシリーズよりキャブが低く、優れた視界をもたらしている。安全運転と衝突回避のバランスが取れたアプローチにより堅実なパフォーマンスを発揮している。Rシリーズと同様、有効な機能がオプションであることは残念だ。キャブマウントの低さにより直接視界は改善しているが、CMSの欠如は減点となる。交通弱者用のAEBとの組み合わせはシティ・セーフに認定できる。全体的には、適切なオプションを選択することで、様々な環境で安全な選択肢となる。
ボルボ「FHエアロ」
評価:★★★★★ (5つ星)
シティ・セーフ:認定
安全運転:80%
衝突回避:89%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: ボルボFHは輸送セクターが選択すべき車両として優れた安全性を備えた素晴らしい選択肢だ。良好な直接視界を、CMSと傾斜したフロントウィンドウがさらに強化している。ドライバー補助システムを豊富に備え安全運転スコアが高い。さらに高い評価となったのが衝突回避で、トラックの進路にある自転車用のAEBなどユーロNCAPが評価する全てのシステムが利用可能であり、高いスコアを記録した。優れた視界と交通弱者に対するAEBの組み合わせで5つ星の最高評価を獲得するとともに、シティ・セーフ認定も獲得しており、ハイウェイのみならず都市部の走行においても最適な車両といえる。
ボルボ「FM」
評価:★★★★★ (5つ星)
シティ・セーフ:認定
安全運転:87%
衝突回避:89%
レスキュー:80%
ユーロNCAPのコメント: ボルボFHとともにFMも今回の評価の対象となったが、キャブ位置の低さによりFH以上の近接視界を確保している。この非常に優れた直接視界に加えてCMSも利用でき、安全運転スコアは極めて高い。(FHと同等の)衝突回避システムも高いスコアを記録した。オールラウンダーとして5つ星の最高評価とシティ・セーフ認定を獲得しており、都市とハイウェイの双方で最適な選択肢となっている。
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