文部科学省は今年1月、児童・生徒の健診について正確な検査・診察に支障のない範囲で着衣を可とする通知を出した(写真はイメージ)=ゲッティ

 学校の健康診断で上半身裸になる必要はあるのか、それとも着衣で大丈夫なのか? ネット上で議論がやまない。事の発端は20日、横浜市神奈川区の市立小学校で実施された健診。児童が上半身裸で受診したことに対し、保護者が対応を疑問視する声をSNS(ネット交流サービス)に投稿し、拡散された。

 横浜市教育委員会などによると、この小学校では男性医師が聴診器を使って心音の検査などを実施。4~6年の男女児童計約100人が上半身裸で受けた。健診前には複数の女児が脱衣について不安の声を上げたが、最終的には全員が上半身裸になったという。女児の診察には女性看護師が同席していた。

 児童・生徒の健診について、文部科学省は今年1月、正確な検査・診察に支障のない範囲で体操服などの着衣を可とする通知を全国の教育委員会などに出したが、皮膚や心臓などの疾患の有無を確認するため「必要に応じて体操服・下着をめくって視触診したり、聴診器を入れたりする場合があることについて児童生徒や保護者に事前に説明する」などと例示。「検査・診察の内容や方法などについて児童生徒と保護者の理解が得られるよう、事前に丁寧に説明を行う」としているが、自治体や学校で内容の解釈に差があり対応が分かれている。

 この学校では7日付の「ほけんだより」で「上半身を脱衣して検査します」と各家庭に連絡していた。横浜市教委は「健診において校医らが必要と判断し、プライバシーの配慮や保護者らへの事前通知も実施している」として問題ないとの考えだ。一方、PTA関係者によると、帰宅後に「健診で脱衣するのが嫌だった」と保護者に訴える女児もいたという。同校に通う女児の母親は「病院では服の上から聴診器を当てているのに、健診で上半身裸になることに抵抗感を持つ子どもがいるのは当然だと思う。不安になった児童にも脱衣を求めるのは、子どもの人権を考慮していないのでは」と不満を語った。

 学校健診を巡っては、2022年に岡山市内の中学校で医師が健診中に下着姿の女子生徒5人を盗撮したとして逮捕される事件があった。上半身裸での検査に児童・生徒や保護者らが不安を覚えるケースが相次ぐ。

 学校医の経験があり、学校保健に詳しい川村孝・京都大名誉教授は「呼吸を2~3秒止めてもらえれば、体操着やシャツの上から心音は確認できるが、きぬ擦れの音が入りやすく、呼吸音の十分な診断は難しい」と指摘。一方、検査項目である、脊柱(せきちゅう)がねじれを伴って左右に曲がる脊柱側湾症については「体操着を着て立ったまま前屈してもらえれば後ろから顕著なゆがみは確認できる」とした。「学校健診は限られた条件で(異常を)スクリーニングするもの。予防医療は苦痛がないことが大事。医学的理想を追わず、安心と快適さを優先すべきだろう」との見方を示す。

京都大学の児玉聡教授=本人提供

 医療倫理が専門の児玉聡・京都大教授は「文科省は自治体や学校が一貫した対応がとれるよう、さらに具体的なガイドラインを提示するのが望ましい」と語った。具体的には「児童・保護者に対して、脱衣▽体操着▽タンクトップ――の違いで、検査結果がどのように異なるのか、エビデンス(科学的根拠)を示した上で、健診を受けるのかどうかを保護者や生徒本人が選べるようにするなどの対応が必要だろう」と提案する。【デジタル報道グループ】

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