この冬の仕込み作業を終えた藤原伸彦さん=長野県長和町で

 長野県のほぼ中央に位置する長和町。ペンションが並ぶ標高1500メートルの姫木平地区に、国産生ハムを作るアトリエ「ジャンボン・ド・ヒメキ」はある。3月上旬に訪れた際は雪が多く残り、シラカバの枝が風でこすれる音が響いていた。  代表の藤原伸彦さん(52)は、フランス語で「塩漬けする人」を意味するサレゾニエを自称する。フランス料理人の藤原さんは、レストランの再生やプロデュースを経て、関わった店で提供する生ハムを作ったのがきっかけで、2015年に開業。両親が経営していたペンションの一角をアトリエと貯蔵庫にした。  仕込みは、毎年11月中旬~翌年2月末。使うのは長野県産豚のみで、前脚と後ろ脚の余分な骨と脂を取り除き、血抜きして塩漬けし、ひもでつるす。  こだわりはこうじ菌をまぶすこと。熟成が進んでタンパク質がアミノ酸に変わり、うまみが凝縮されるという。3月後半~5月前半に乾燥させた後は、湿度を上げて発酵を促す。前脚は8月、後ろ脚はさらに1年後の8月ごろに完成。この冬は380本、計5トン分の生ハムを仕込んだという。  貯蔵庫には、カットする前の骨付きハムを意味する「原木」がずらりとつり下げられている。冬は最高気温が0度以下となり、冷蔵庫の中にいるような寒さだ。2年前に仕込んだという前脚の生ハムをスライスしてもらった。口に入れると、脂が溶けてじゅわっと広がり、かめばかむほどうまみと程よい塩気が広がる。  関東のワインショップなどにおろすほか、血抜きから塩漬けまでをアトリエで体験し、完成品を家に届けるワークショップも開く。この冬は222人が参加。一般の人だけでなくプロの料理人にも人気という。  生ハムといえば、スペインのハモンセラーノやイタリアのプロシュートが有名だ。藤原さんは「気候や風土の違いによる国産ならではの味わいを楽しんで。国産生ハムの中でもピカイチだと言われたい」と話す。  文・写真 石川由佳理

◆買う

 ジャンボン・ド・ヒメキの生ハム=写真=は、国産生ハム協会(東京)が運営するオンラインショップで購入できる。現在は在庫がかなり少なく、9月後半以降に入荷予定。オンラインショップでは、他の国産生ハムも購入できる。  「生ハムと同じくゆっくり時間をかけて熟成しているものが合う」と藤原さん。ワインはもちろん、中国茶や日本酒ともぴったりだそう。ペペロンチーノやリゾットなどの温かい料理にふわっとのせると、香りや味わいを感じやすいという。


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