日々、昼夜問わずニュースを追う記者たち。彼らが中でも楽しみにしているのが食事のひとときだ。うどんスープを使った驚きの発想の素ラーメンから、あえて違う地名の看板を置く居酒屋までストーリー豊かな店に記者は惹きつけられる。町の隅々まで駆け回った地元記者だからこそ知る名店を紹介したい。

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うどんとラーメンが異色のコラボ!素ラーメン/鳥取

鳥取で地元記者がおすすめする店は、創業110年を超える鳥取市の老舗「武蔵屋食堂」。

「安くておいしいラーメンを」という、店主の思いがこもった看板メニュー「素ラーメン」は、市民のソウルフードとして70年にわたって親しまれている一品だ。

「武蔵屋食堂」の素ラーメン(550円)
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透き通った黄金色のスープに、鳥取県産の小麦でできた自家製の麺。そこに天かす、もやし、かまぼこがトッピングされている。シンプルな見た目のごく普通のラーメンだ。

取材した記者は、「スープはうどんのだしのような香り。とてもさっぱりしているが、かつお節のだしがしっかり効いていて、お酒を飲んだ後に食べたくなる味」と、その味を伝えている。

それもそのはず、実は、スープは「かつお」べースの「うどんだし」。

これにラーメン用の麺を組み合わせた、“ありそうでなかった”一品だった。

誕生したのは、今から70年ほど前、昭和30年ごろ。

市民に「安くておいしいラーメンを食べてほしい」という思いから、武蔵屋食堂の2代目主人が、ラーメンに安価な「うどんスープ」を使うことを思いつき、「素ラーメン」と名付けて、提供を始めたそうだ。

武蔵屋食堂では、今も1杯550円、“ハーフサイズ” なら380円で提供、懐にもやさしい市民の味。

他店でも提供され、鳥取市民の「ソウルフード」と呼ばれるほどまでに親しまれ、まんが「孤独のグルメ」(作画担当の谷口ジロー氏は鳥取市出身)にも描かれた。

2024年4月には、その味に魅了されたインドネシア人事業家が、現地のラーメン店で提供を始めた。

鳥取生まれの“安くておいしい”「素ラーメン」は、国境を越えて愛されることになりそうだ。
(TSKさんいん中央テレビ)

《武蔵屋食堂》
住所:鳥取市職人町15

「両親の味を引き継ぎたい!」復活した大判焼き/島根

島根で地元記者がおすすめする店は、松江駅から歩いて10分ほど、松江市中心街に店を構える「きむら新月堂」。昔懐かしい「大判焼き」を販売し、こだわった素朴な味わいが半世紀以上にわたって市民に親しまれている。

大判焼きを作る店主・木村まりさん

店先からは、店主の木村まりさんが、次々に「大判焼き」を焼き上げていく様子を見ることができる。

1個180円の「大判焼き」は、はみ出すほどの「あんこ」入りと、ふわふわの「クリーム」入りの2種類。見た目も味わいも懐かしさを感じさせる“庶民派”のお菓子だ。

「きむら新月堂」は1945年に和菓子店として創業、先代の両親、勝彦さん・啓子さん夫婦が長年、大判焼きをつくり続けてきた。生地や「あんこ」などの仕込みは勝彦さん、焼きは啓子さんが担当、熟練の連携でやわらかく焼き上げる、まさに夫婦“2人3脚”の逸品だ。

20年ほど前までは、多い日には1日1000個を焼き上げたそうだが、菓子・スイーツの好みの多様化もあって、2021年の閉店直前には1日100個ほどに。

夫婦とも高齢になったこともあり、2021年8月、多くの市民に惜しまれながら閉店した。

しかし、仕事場で両親の背中を見て育った娘のまりさんが、市民に長らく愛された味を途絶えさせたくないと、 “脱サラ”して店を引き継ぐことを決断、2023年5月、再オープンした。

娘の決断に当初は猛反対だったという父・勝彦さんだったが、生地やあんこの仕込みの技を伝授。母・恵子さんも焼きの“極意”を教え、「新月堂」の味が引き継がれた。

大判焼きを焼く鉄板などの機材は、閉店後処分してしまい、新たに調達したそうだが、唯一、看板だけは、いつか店を再開させようと、まりさんがこっそり保管。今の店でも目印になっている。

「思いを引き継いで。感謝しかないので、あんこと一緒に大判焼きに詰めていきたい」と話すまりさんの「大判焼き」も、松江市民に末永く愛されることだろう。
(TSKさんいん中央テレビ)

《きむら新月堂》
住所:島根県松江市東朝日町83−12

火災乗り越え復活!牡蠣とダブルで楽しめるお好み焼き/広島

広島で地元記者がおすすめする店は、広島市南区のお好み焼きと鉄板焼きの店「広島赤焼えん」。今、再開発が進む広島駅南口の西側に残る人情横丁、通称「エキニシ」に佇む名店だ。

店の看板メニューは、広島県北部で伸び伸びと育った廣島赤鶏の旨味の強い肉とジューシーな皮を堪能する「赤焼」、そしてその「赤焼」のお好み焼きバージョン「赤おこ」。ピリ辛の赤い特製たれでいただく自慢のメニューだ。

旨味のある赤鶏の脂に負けないようキャベツはざく切りに

広島の定番のお好み焼きはキャベツを千切りにするが、「赤おこ」はキャベツをざく切りにする。赤鶏の旨い脂に負けないようにする工夫なのだという。

茹で上がったソバに、たっぷりの油をかけて、こんがりとパリパリ麺に。

「広島赤焼えん」のかきの赤おこ(1815円)

卵を割って、仕上げにコチジャンをベースに12種類の素材をブレンドした特製の赤だれ、さらにぷりっぷりの牡蠣を乗せると、えん特製「かきの赤おこ」(1815円)の完成だ。

地元民に愛されるこの店が大惨事に見舞われたのは、2021年11月のこと。飲食店や住宅が密集する「エキニシ」に大規模な火災が発生し、「えん」を含むおよそ30棟が焼け出された。

広島市エキニシ大規模火災(2021年11月10日)

焼け跡の「えん」に残っていたのは、消火の水でさび付いた1枚の鉄板だけ。別の場所で再スタートする選択肢もあったが、店長の伊藤勝さんが選んだのは同じ場所で再建だった。

「みんなで力を合わせて一致団結していけるのが、この地区のいいところ」

地区の人やお客さん、多くの人の励ましの言葉に支えられ、火災から約半年後に、店の再建を果たした。

「広島赤焼えん」のマシマシ牡蠣(2647円)

広島と言えば、お好み焼きと牡蠣。牡蠣好きの人には、15個の牡蠣をトッピングした「マシマシ牡蠣」(2647円)もオススメだ。

牡蠣の下に隠れているのは定番のお好み焼き。人情あふれる街「エキニシ」で、お好み焼きと牡蠣を一度に楽しむ醍醐味をぜひ味わっていただきたい。
(テレビ新広島)

《広島赤焼えん 駅西本店》
住所:広島市南区大須賀町13-19

あえて違う地名の看板を置く居酒屋/岡山

岡山で地元記者がおすすめする店は、岡山市北区の天満屋デパートの斜め向かいにある飲食店「ノラネコ食堂」。

2022年12月にオープンしたこの店は一品料理のほか定食やお酒なども提供している。

「ノラネコ食堂」の中華そば(900円)

人気メニューの1つが鳥ガラベースのスープで細めんの食感が楽しめるやさしい味わいの中華そば(900円)。チャーシューやかまぼこなど定番の具材とともに入っているのは、岡山県倉敷市真備町特産のタケノコだ。

店主の岩田圭司さんは2018年の西日本豪雨の際、被災地の真備町でがれきの搬出や炊き出しなどのボランティア活動に入り、支援活動を続ける中でボランティアの食事場所や、地元の主婦たちの雇用の場が少ないことを知った。被災者からも「いつまでも無料で配るのではなく、料理のお金を取ってほしい」といわれたことから、2019年の夏、真備町に「ノラネコ食堂」をオープン。

復活した「ノラネコ食堂」

昼は飲食店、夜は居酒屋としてまちの復旧工事にあたる関係者や住民に親しまれたが、被災者から借りた店の敷地の使用期限を迎えたため、2022年3月に真備町の店を畳み、その年の冬に岡山市の現在の場所に「ノラネコ食堂」を“復活”させた。

「ノラネコ食堂」のかぐやもち(500円)

店では真備町特産のタケノコを使ったおかずみそ「飯取物語」がのった「かぐやもち」(500円)のほか、岩田さんが東日本大震災の被災地支援で関係ができた岩手県三陸産のワカメやホタテなどを使った料理も味わえる。

現在の店には真備町時代の常連客が岩田さんや店員に会いに頻繁に店を訪れ、岩田さんも1週間から2週間に1回、真備町に足を運び、住民との交流を続けている。

2024年1月に発生した能登半島地震の被災地、珠洲市や輪島市などには、炊き出しのためすでに7回足を運んだという岩田さん。真備町に戻るとなじみの住民から、「炊き出しの足しにしてほしい」とカンパが寄せられることもあるそう。

現在も使われている「真備店」の看板

災害のことを決して忘れてはいけないー。

被災地の食材を店のメニューに反映させてきた店主の岩田さん。玄関にいまも「ノラネコ食堂 真備店」の看板を掲げた店に能登半島の名物がメニューに加わる日もそう遠くなさそうだ。
(岡山放送)

《ノラネコ食堂》
住所:岡山県岡山市北区表町1丁目9−42

※2024年5月時点の情報です。

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