大雨や台風などの際、よく見聞きする「土砂災害警戒情報」。以前より頻度が増えたと感じる人もいるかもしれない。

実際2023年には、群馬・埼玉・東京・香川以外の43道府県で1471件もの土砂災害が発生した。これは、国土交通省が1982年に統計を開始して以降の平均発生件数を、400件近く上回っている。

世界でも有数の“土砂災害大国”である日本。なぜ多くの土砂災害が起こり、そして近年増えているのか。
NPO法人「土砂災害防止広報センター」がサイトなどで公開している情報を参考に「土砂災害」について解説する。

「土砂災害」には3種類ある

そもそも「土砂災害」とは、山やがけで土砂(土・砂・石)が崩れたり、崩れた土砂が雨水や川と混ざって流れるなどして、住宅や道路などが埋まったり、人命が奪われたりする災害のことだ。

そして、土砂災害は、発生のしくみや動き方から大きく「土石流」「地すべり」「崖崩れ」の3つに分けられる。

【土石流】

土石流の様子(NPO法人「土砂災害防止広報センター」HPより引用)
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山や谷の土砂が大雨などで崩れて、水と混ざりドロドロになり、ものすごい勢いで山の下へと向かって流れていく現象。大きな岩を先頭に、時速40~50キロの速さで流れ下り、岩や大木を巻き込んで大きくなっていく。

大雨が原因となることが多いが、雪国では、雪解け水が原因で起こることもある。地方によって、「山津波(やまつなみ)」「てっぽう水」「蛇抜け(じゃぬけ)」などと呼ぶこともある。

【地すべり】

地すべりの様子(NPO法人「土砂災害防止広報センター」HPより引用)

傾きが比較的小さい斜面が、広い範囲にわたってすべり落ちていく現象。
速さは、通常1日に数ミリ程度だが、数メートル動くこともある。また、地震などがきっかけで突然起こることもある。

家や田畑、生えている木なども一緒に大きな塊のまま動くのが特徴で、動く範囲が広いため、一度に大きな被害が出る。

地すべりが起こる仕組み(NPO法人「土砂災害防止広報センター」HPより引用)

地すべりには、地層が大きく関わっている。
地層には水を通しやすいものと通しにくいものがあるが、雨水や雪解け水などが“水を通しにくい地層”の上に溜まると、それより上の地面が浮力で持ち上げられ、斜面の場合は下へと滑っていく。これがおおよその仕組みだと考えられている。
(※場所によって少しずつ違いがある)

【崖崩れ】

崖崩れの様子(NPO法人「土砂災害防止広報センター」HPより引用)

雨水や雪どけ水が、多くしみ込んだことや、地震の揺れなどが原因で、急な斜面が突然崩れ落ちる現象。
地すべりのように、地面が少しずつすべり落ちるのではなく、一気に大量の土が崩れ落ちてくるため、崖の下にいる人は逃げる時間はなく、巻き込まれてしまうことが多い。

日本は世界有数の“土砂災害が多い国”

日本で土砂災害が多い原因は、日本列島の地形や地質・気象など自然条件が大きいという。具体的に見ていこう。

【原因1】世界と比べて約2倍の降雨量

土砂災害を起こす大きな原因の1つは雨だ。日本の1年間の平均雨量は約1700ミリで、世界平均の約970ミリを2倍近く上回る。
さらに日本では、梅雨や台風などの季節に大量にまとまって降るため、この季節に土砂災害が起きやすい。

“数十年に1度の大雨”で土石流が発生した山間の集落(2023年7月 福岡・久留米市)

【原因2】豪雪地帯にも人が多く住んでいる

そして、冬になると雪が降る。
日本の面積の約51%が豪雪地帯で、こうした地域にも人が多く住んでいる。そのため、雪解け水や雪崩が原因の土砂災害の被害を受ける人も多くなる。

【原因3】“山地”が多く、居住者も多い

次に、日本は山や丘陵地が約70%を占め、高くて険しい山が多いという特徴がある。加えて、多くが崩れやすい地質でできているため、雨や地震で土砂災害が起こりやすい。

さらに平地が狭いため、山の斜面などの土砂災害が起こりやすい場所に住んでいる人が多くいる。これも、大きな被害が出る要因となっているという。

【原因4】川は急流が多い

世界の川と比較(NPO法人「土砂災害防止広報センター」HPより引用)

高くて険しい山が多いため、川も傾きがキツイ急流が多い。土砂災害防止広報センターによると、「日本の川は、川というより滝といった方がいいくらい」だという。
もちろん川の傾きがキツイほど、水の流れが速くなり、山を削り取る力も強くなるため、災害が起こりやすくなる。

【原因5】地震が多い

4枚のプレートが接する場所にある日本。地震の震動が原因で、土砂災害が起こることも

最後に地震だ。日本列島は、4枚ものプレートが接する場所にあるため地震が多く、“地震大国”と言われるほど。地震の振動が原因で、崖崩れや地すべりが起こり、崩れた土によって土石流が起きたり、崩れた土砂が川をせき止めて土石流を引き起こしたりする。

ほかにも、活火山が多いなど、日本は土砂災害が起こりやすく、被害を受けやすい環境だ。

今後「大規模化・多発化」の懸念も

もともと土砂災害が起こりやすい日本ではあるが、冒頭で触れたように、近年その数が増加しているのはなぜなのか。
様々な理由が考えられるが、国交省水管理・国土保全局砂防部によると、その要因のひとつとして、気候変動とそれに伴った雨の降り方の変化(まとまった雨が同じ場所に降る)が考えられるという。

降り続く大雨により、裏山で土石流が発生。多くの住宅に土砂が流れ込んだ(福岡・久留米市2023年7月)

また、宅地開発が進み、昔に比べてより危険性がある地域に人が住むようになったことも、被害の増加につながっているようだ。

今後、地球温暖化の影響を受け、土砂災害の大規模化・多発化や、雨が降り始めてから土砂災害が発生するまでの時間が短くなる可能性も懸念されている(国交省 「実効性のある避難を確保するための土砂災害対策検討委員会」報告書 2019年5月より)。

まずは、自分が生活する地域について知り、対策を講じることが鍵になるだろう。

次回は、危険な場所の特徴や、土砂災害の前触れを知る方法について紹介する。

(NPO法人 土砂災害防止広報センター「学び伝える 土砂災害を防ぐ、備える、学ぶ、伝える」より引用)

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