那須どうぶつ王国で誕生し、中央アルプスに放鳥されたライチョウ2羽(12日撮影)=那須どうぶつ王国提供

 那須どうぶつ王国(栃木県那須町)で今夏繁殖した2羽(雄1羽、雌1羽)を含む国の天然記念物で絶滅危惧種のニホンライチョウのヒナが今月、長野県の駒ケ岳山頂付近に放鳥された。環境省が2019年から取り組む、中央アルプスにライチョウの群れを復活させる野生復帰事業の一環で、動物園で卵から人の手で育てられたヒナが初めて野生に戻された。同王国は今月、全国18施設目の「希少種保全動植物園」にも環境省から認定され、「希少種保全の取り組みをより積極的に進めたい」としている。

 同王国では6月、一般非公開のライチョウ野生復帰順化施設で飼育するライチョウのつがいが7個を産卵。人工ふ化で7月に計4羽が誕生し、ライチョウはふ化後1カ月の死亡率が極端に高いことなどから慎重に人工飼育した。2羽が8月上旬に死亡したものの、2羽は順調に成長した。野生での主食の高山植物を消化できる腸内細菌の獲得など高山帯で生存できる耐性がついたことを確認し、9月17日、大町山岳博物館(長野県大町市)の8羽と合わせ、中央アルプスに移送された。

環境省職員に背負われ、中央アルプスの駒ケ岳に移されるライチョウ(17日撮影)=2024年9月17日午後3時37分(那須どうぶつ王国提供)

 移送中に大町の3羽が死亡し、駒ケ岳の頂上山荘付近に設置したケージに計7羽(雄2羽、雌5羽)を収容。高地の環境に順応した同23日、7羽は放鳥された。越冬して成鳥となり自然繁殖ができれば、動物園で人工ふ化、人工育雛(いくすう)した個体の野生復帰が成功する。環境省などによると、絶滅危惧状態を脱するには、動物園などで育った個体を野生に戻す技術の確立が不可欠だという。

 環境省の取り組みは、ニホンライチョウの目撃が1969年を最後に途絶えていた中央アルプスで2018年、野生1羽が確認されたことを機にスタート。北アルプスなど他山域の野生の個体を移す▽他山域の有精卵を野生の雌に抱卵させる▽飼育下の有精卵を抱卵させる▽野生の雌雄を保護し動物園で繁殖させて移す▽飼育下で繁殖した個体を野生に戻す――などを試み、24年4~7月の調査では縄張り約60地点、成鳥120羽以上の生息が確認された。成鳥が300羽いれば自然繁殖下で野生の群れを維持できると考えられるという。

 同王国は17年、動物園飼育下のライチョウの有精卵の人工ふ化と飼育を開始。中央アルプスの野生復帰事業には20年から加わり、環境省の計画に基づいて、野生の親とヒナを保護し育雛、繁殖させて戻す(21~22年)▽自然繁殖と人工繁殖で育てたヒナと成鳥を戻す(23年)▽飼育下のつがいの卵を人工ふ化、人工育雛したヒナのみを戻す(24年)――などの試みを続けていた。

 同王国は「生物多様性や地球環境の保全は動物園の重要な役割の一つ。野生復帰を予定しないライチョウの個体は飼育展示もしているのでぜひ会いに来てほしい」と話している。【藤田祐子】

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