これから暑くなる時期は熱中症のリスクが高くなる。軽症のうちに対処して、重症化させないことが大切だ(写真:buritora/PIXTA)

季節は徐々に夏に向かっている。日によって気温が異なるこの時期は、突然暑くなって体調を崩す方が多い。発汗して体温を下げることに体が不慣れな時期は熱中症のリスクが高くなる。また、暑さによるストレスに脱水が重なるからだろうか、夏場は心筋梗塞や脳梗塞が増える。

熱中症についておさらいしよう

人体は複雑な化学反応で生命を維持しているが、化学反応が起こるには適正な温度の範囲がある。体温が高すぎても低すぎても臓器の機能は低下し、さらに重症化すると多臓器不全で死に至る。適正な体温を維持するため、体は暑ければ発汗して体温を下げ、寒ければ震えて熱を産生する。しかし、その調節の限界を超すと、熱中症や低体温症となる。これから暑くなる時期は熱中症のリスクが高くなる。

熱中症は、軽症の場合は立ちくらみ、足がつるなどの症状が現れる。軽症のうちに対処して、重症化させないことが大切だ。

熱中症の重症度分類と対処法

I度: めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)
意識はクリア
通常は現場で対応可能→冷所での安静、体表を冷却する、経口的に水分と食塩を補給するII度: 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下
意識はあるが、すこしボンヤリしている
医療機関での診療が必要→体温管理、安静、点滴などによる水分と塩分の補給III度: 意識障害(呼びかけると起きるが、すぐに眠ってしまう)や痙攣
入院治療が必要→救急車を要請していいレベル

熱中症の治療の要は体を冷やして体温を適正レベルまで下げることだ。水を飲むのは正しいが、発汗することで体温が下げられるなら、という条件付きだ。気温の高いところで水分を摂るより、クーラーの効いた室内で休むのが正解だ。

少しボンヤリして頭痛がする、というような場合は、涼しいところで水分を摂って休み改善すればいいが、改善しない場合は医療機関の受診を考えるべきだ。ところが、レジャーに出掛けるような週末や連休では医療機関も休みの所が多い。早めの気づき、セルフケアが重要となる。

水分と塩分の補給方法として、私は経口補水液をお勧めする。スポーツドリンクや水、麦茶などを飲む方は多いが、それでは塩分が足りず、血管内への水分の吸収が悪いからだ。経口補水液は、コレラなど下痢で体液を喪失して死んでしまうような病気の時に『飲む点滴』として開発された。基本的な成分は水と食塩と砂糖だ。

さまざまなレシピがあり、現在では飲料メーカーがさまざまな製品を売っている。代表格は大塚製薬のOS-1だ。しばしば「経口補水液はマズイ」という評判を聞く。たしかにスポーツドリンクに比べると甘みは少なく、少し塩気をつよく感じる。不思議なものだが、脱水で体が水と塩を欲しているときは、とても美味しく感じるのだ。

喉の渇きは、血管に分布するセンサーが体液の減少を感知することで起きる感覚だ。これは自律神経というシステムがつかさどっているのだが、自律神経は加齢とともに機能が低下する。中年期以降、とくに高齢者では喉の渇きを感じる頃には大分脱水が進行していることになる。

脱水は浸透圧によって3つに分類される

高張性脱水:塩分より水分が失われた状態で、血液の塩分濃度は濃くなる等張性脱水:塩分と水分が同程度に失われた状態で、血液の塩分濃度は変わらない低張性脱水:水分より塩分が足りない状態で、血液の塩分濃度は低い

人体には血液の量と浸透圧を感じる2種類のセンサーがあり、浸透圧を感じるセンサーのほうが鋭敏だ。よって高張性脱水(水分欠乏型脱水)には気づきやすい。だが等張性脱水(水分とナトリウム欠乏型脱水)のように、血液が減少している場合は気づきにくい。健康のために塩分を控えるのは良い事だ。ただし、大量に汗をかいて塩分も多く失われるような状況では、塩分摂取が必要なのだ。

症状だけでは熱中症と心筋梗塞は見分けられない

一方、熱中症だと思っていたら、実は心筋梗塞だった、というようなケースは少なくない。心筋梗塞は左胸が痛む、いやいや左肩や左あごにも痛みを感じるらしい、と考える方がほとんどだ。そのような典型的な症状の方は診断が容易だ。だが臨床をやっていると、「何となく具合が悪い」、「気持ち悪くて吐いてしまった」というはっきりしない症状で来院する心筋梗塞の方をしばしば目にする。実は、心筋梗塞の痛みは自律神経が弱っていると感じないのだ。とくに糖尿病の方では自律神経の機能が低下しやすいため、気づかないうちに無痛性の心筋梗塞を起こしているケースは多い。

熱中症というのは、他の病気が除外されて、「他に原因がないから、きっと熱中症でしょう」と消去法でしか診断できないものなのだ。ましてや、心筋梗塞や軽い脳梗塞でも起きうる症状と類似しているため、さまざまな基礎疾患のある方の熱中症の診断は容易ではないのだ。

できれば普段からしっかり水分を摂って脱水を予防し、熱中症になるような環境は避けるのが安全だ。では、しっかり水分を摂るとは、どうすればいいのだろうか?

実は、夜間の筋痙攣も脱水が原因のことが多い。そのような方には、経口補水液を毎日500mL、2〜3日続けて飲んで、症状が起きなくなるか否か試すよう説明している。ほとんどの方は症状が改善し、脱水が原因だったと判明することが多い。夜、寝る前に水を飲んでから寝る、夜中に喉が渇いたときに飲めるように枕元に水を用意している、というように用心している方でも、この対策は有効のことが多い。カギとなるのは水ではなく塩なのだ。

夜間でなくとも筋肉がつりやすい方も試してもらいたい。もちろん、何らかの基礎疾患があって通院しているような方は主治医の指示に従うべきだ。

経口補水液は、自分で作ることもできる。 1リットルの水に、塩を3グラムと、砂糖を40グラム溶かすだけ。レモン果汁などを加えると香りが良くなり飲みやすい。これを冷蔵庫で冷やしたり、ウイルス性胃腸炎で熱のある時などは温めて飲むといい。

普段は水や麦茶でいいが、人によって発汗で失われる水分や、食事で摂る水分量が異なるため、1日5〜7回ほどトイレに行き、かつ尿の色がレモン色か、それより薄いくらい、というのを目安にするといい。脱水だと尿の色が濃くなり、黄色からオレンジ色っぽくなるので、水分摂取量を増やすべきだ。

長時間ドライブに潜むリスク

長時間同じ姿勢をとっていると、足の静脈の中で血がかたまって血流が悪くなる血栓症が起きやすくなる。血栓がはがれて肺の血管に流れ込むと詰まり、肺のガス交換を妨げ、重症の場合は心臓に血が戻らなくなり、死に至る危険な病気だ。

遠出のドライブには血栓症のリスクがある。連休前は仕事が忙しく、食事もろくに取れなかったりして脱水になりがちだ。さらに旅行先ではお酒が普段より多くなり、これも脱水の原因となる。脱水は血液の粘り気を増し、血が固まりやすくなって血栓症のリスクを上げる。よって、血管内の脱水を防ぐため、ぜひ経口補水液を飲んでもらいたい。

経口補水液は渋滞で心配されるトイレ問題にも有利に働く。経口補水液のように塩分を含む飲み物は、水や麦茶を飲むより尿になりにくい。塩分のない水を飲むと血液が薄まり、体が反応して水分を尿として排出して平衡を保とうとする。経口補水液ではその反応が起きにくいので、その心配が少ない。よって運転時にも安心して飲んでもらいたい。

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