ラピダスと北海道大学は半導体人材育成や研究で連携する(5日、札幌市)

最先端半導体の製造を目指すラピダスと北海道大学は5日、人材育成から研究まで幅広い分野で連携すると発表した。ラピダスが大学とこうした包括的な連携協定を結ぶのは初めて。2024年中をめどに、キャンパス内に最先端半導体を評価分析する拠点を設ける。

北大で開いた記者会見でラピダスの小池淳義社長は「学生は最先端半導体が誕生する様子を身近に見ることができる。将来、産業を担う人材を育てる良い機会になる」と述べた。北大の宝金清博学長も「半導体産業は大きなインパクトがある。北大が持つ多様な財産をフル活用してラピダスと協力して進んでいきたい」と語った。

ラピダスの小池淳義社長は「北大との連携は人材育成の上で極めて重要だ」と述べた

ラピダスは、北大キャンパス内で早ければ25年4月にも最先端の回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を対象にした評価分析を始める。既存の建物内にスペースを確保し24時間365日稼働で、30〜40人ほどのラピダスのエンジニアが作業する。同社の清水敦男専務執行役員は「25年4月から、ウエハーを使った研究活動を始める。その瞬間から構造解析すべきサンプルが生まれる」と話した。

ラピダスは2ナノ半導体を、27年に量産する計画だ。試作ラインは25年春の稼働を予定する。小池社長は「評価はパッとできれば良いが環境整備には大事な点もある。研究基盤を持つ北大との連携が有効だ」と強調した。具体的な評価分析方法について、清水氏は「まず北大でやりたいのは、原子レベルで半導体材料がどうなっているのか直接みることだ」と説明した。

人材育成や先端半導体研究も促進する。時期は未定だが、ラピダスの社員が北大生の講義を担当したり、キャンパス内の評価分析施設を学生が見学したりできるようにする。北大の研究成果をラピダスの社員が学ぶ機会も設けて「双方にメリットがある」(小池社長)連携を目指す。

すでにラピダス社員による北大での講義は一部の学部学科で始まった。北大は今後、半導体の授業を幅広い学生に展開する考えだ。山口淳二副学長は「大学院には共通科目があり、しっかり乗せる」とも話した。

半導体産業の従事者は、国内メーカーの衰退とともに減少してきた。目標とする世界最先端のロジック半導体の開発、製造を実現するためには、優秀な人材確保が欠かせない。ラピダスは自社の事業内容の一つに「半導体産業を担う人材の育成・開発」を掲げる。

半導体人材の獲得競争は過熱している。リクルートの調査によると、半導体関連エンジニアの求人は23年1〜6月期に12.8倍(13年同期を1とした場合)に上る。材料開発や品質管理・保証など分野別の求人数は、22年度までの5年間にそれぞれ3倍前後になった。

ラピダスが進出する北海道でも、半導体人材の育成・確保が欠かせない。北大は教育・研究体制を整えるため、熊本大の現役副学長で台湾積体電路製造(TSMC)進出時の対応に携わった清水聖幸氏を副学長に招いた。清水副学長は北大内の半導体関連リソースを束ね、企業との窓口を担う「半導体拠点形成推進本部」のメンバーだ。北大の宝金学長は「検討中だが、国内だけでなく海外大学とも人材育成で連携したい」との考えも示した。

北海道大学の宝金清博学長は半導体人材の育成について海外大学との連携を検討していることを明かした

三菱総合研究所の宮下友海主席研究員は「半導体産業は集積が必要で、装置や素材メーカーなど人材需要に応える力は地元大学が一番持っている」と指摘する。三菱総合研究所の試算では、国内の半導体関連産業で必要となる人材数は35年に約35万人と、20年比で約20万人増加する。ラピダスにとどまらず、幅広い裾野を持つ半導体産業全体を見据えた人材育成が求められる。

北海道には半導体産業の集積が乏しく、人材も少ない。北大修士課程では情報・工学系の場合、9割超が道外で就職するなど、理系人材の道外流出が顕著だ。

ただラピダスの進出とともに、今後は半導体関連企業が集積することが予想される。北海道経済産業局は、30年度の道内半導体関連企業の採用数は23年度のおよそ3倍にあたる約600人まで増えるとの予想をまとめた。

北大以外の教育機関も、半導体人材を育成しようと動き始めた。高等専門学校では旭川高専などが中心となり、4高専共通の半導体科目の新設を準備中だ。ラピダスの工場に近い公立千歳科学技術大学もシリコンリサーチセンターを4月に立ち上げ、NTTイノベーティブデバイス(横浜市)との連携が始まっている。

(神野恭輔、塚田源)

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