東京大学の研究グループは、イタリア南部のカンパーニャ州にある活火山、ベスビオ山の北側にあるローマ時代の遺跡「ソンマ・ヴェスヴィアーナ」で2002年から発掘調査を続けていて、去年、西暦79年の噴火による堆積物の下から新たに大規模な建物の一部とみられる遺構を見つけました。
見つかったのは浴場に送る湯を沸かすための窯があったと見られる部屋です。
この部屋から採取した当時の木炭などから年代測定を行ったところ、西暦1世紀前半に集中していて、そのあとの時代のものはなかったことから、西暦1世紀前半以降、窯としては使われなくなったとみられるということです。
ローマ時代の歴史家の記述ではこの遺跡のある地域には西暦1世紀の前半にローマ帝国の初代皇帝、アウグストゥスの別荘があったとされていて、アウグストゥス自身は西暦14年にその別荘で死んだとされています。
今回見つかった建物には有力者の邸宅にある個人用の浴場が備えられていたと見られること、使われなくなった時期がアウグストゥスの死後と一致すること、のちの時代に建物の上に大型の神殿のようなものが再建されていることなどから研究グループはアウグストゥスの別荘の可能性があるとしています。
発掘開始時から取り組んできた研究グループの東京大学の青柳正規名誉教授は「この地域ではローマ時代の大規模な別荘とみられるものはここ以外にみつかっていない。確実な証拠は今後の発掘を待ちたいが、現段階ではアウグストゥスの別荘である可能性はここが一番高いのではないか」と話しています。
今回の発掘調査 ベスビオ山の噴火被害について新たな発見
今回の発掘調査ではベスビオ山の噴火による被害についても新たな発見がありました。
火山学が専門で調査に長年参加している東京大学の藤井敏嗣名誉教授によりますと、西暦79年のベスビオ山の大規模な噴火では山の南側を中心に火山灰や「火砕サージ」と呼ばれる高温の爆風、火砕流などが押し寄せたことが過去の発掘調査で判明しています。
一方、北側のふもとでは、これまでベスビオ山の噴火の影響で建物が壊れるといった被害は見つかっておらず、山からおよそ5キロ北側のソンマ・ヴェスヴィアーナも5世紀と6世紀の噴火による火山灰などで埋まったとみられていました。
今回、調査チームはソンマ・ヴェスヴィアーナにある2世紀の遺跡の下から軽石に覆われたより古い時期の建物の一部を発見しました。
調査グループはこの建物がアウグストゥスの別荘の可能性があるとしていますが、この建物に積もった軽石の組成を分析した結果、ポンペイなどで見つかった軽石と同じものだったということです。
また、新たに見つかった建物の壁が倒れていたことや屋根瓦が原型をとどめず散らばっていたことから、西暦79年の噴火で発生した「火砕サージ」や火砕流が山の北側のふもとまで押し寄せ、建物を壊すほどの被害をもたらしていたとみられることが初めて分かりました。
堆積物の状態からまず軽石が数センチの厚さに積もり、その後「火砕サージ」とともに火山灰が10センチほど積もったあと、さらに土石流が到達し、高さ数メートルにもわたって建物を覆ったとみられるということです。
藤井名誉教授は「これまで、ソンマ・ヴェスヴィアーナでは西暦79年の噴火の影響があったとしても火山灰が数センチ程度積もるほどだと考えられていた。今回の調査で当時の噴火の影響がより大きかったことを示すことができた。日本にはなじみは薄いが、『火砕サージ』の恐ろしさも理解してほしい」と話しています。
ベスビオ山周辺の遺跡の全容把握できず 発掘調査続く
南イタリアの活火山、ベスビオ山で西暦79年に起きた大規模な噴火では、噴煙が数万メートルに達したとされ、山の南側の都市を中心に甚大な被害が出ました。
このうち最も有名なのは南におよそ10キロ離れたポンペイです。
数ミリから数センチ程度の軽石が大量に降り、そのあと火山ガスを含むおよそ数百度もの高温の爆風「火砕サージ」が押し寄せて多くの人が犠牲となりました。
火山灰が高さ数メートルにわたって積もり当時のままの姿が残されました。
街には神殿や浴場、居酒屋といった建物のほか、水道などが整備され、彩色豊かな壁画や炭化したパンがローマ社会の暮らしを今に伝えています。
一方、火口から西におよそ5キロのエルコラーノではポンペイよりもさらに高温の火砕流が街を襲い、人々の命を一瞬で奪いました。
これらの被害の多くは主にベスビオ山の南側を中心に広がっていることが知られていますが、今回の調査で山の北側の都市でも火砕流などによって建物が破壊されたり埋まったりしていたことが新たに分かりました。
ベスビオ山周辺の遺跡の全容はまだ把握できておらず、ポンペイやソンマ・ヴェスヴィアーナでは今でも発掘調査が続けられています。
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