ジャニーズ事務所から社名変更「SMILE-UP.」は

創業者のジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、ジャニーズ事務所から社名を変更した「SMILE-UP.」は被害者への補償の交渉が続く中、ジャニー氏に性加害を受けたという申告は973人に上っていて、補償の合意に至ったのは先月末で356人となっています。

一方、「SMILE-UP.」はタレントのマネージメントなどを行う「STARTO ENTERTAINMENT」を別の会社として、2023年10月に設立しました。

そして、10日、「STARTO ENTERTAINMENT」は「本格的に業務を開始した」として、ホームページを開設するとともに初めてとなるコンサートを開き、旧ジャニーズ事務所から移籍したタレントが出演しました。

また、ホームページでは会社の概要や組織の体制などを公表し、このなかで「SMILE-UP.と資本関係を全く有しない企業として発足した」としています。

28組295人のタレントと契約しているほか、従業員は「SMILE-UP.」に勤務していたスタッフを中心に、185人おり、いずれも性加害などに加担していないことを確認したとしています。

そのうえで、性加害を含む違法行為を起こさないため、以下の具体的な施策を講じるとしています。

▽人権尊重や性加害問題などについて学ぶ研修の実施

▽タレントも利用できる通報制度の活性化

▽デビュー前の「ジュニア」と呼ばれる子どもたちのための相談先の設置など

しかし、組織運営のうち、10日、改定した「ファミリークラブ」と呼ばれるファンクラブの会員規約には、SMILE-UP.がファンクラブを運営することや、SMILE-UP.が定める入会金や年会費を支払うことが明記されていて、実際に経営の分離をどのように行うのかなど新会社は詳細を明らかにしていません。

ホームページで福田淳社長は「誰も見たことのない高みを目指し、挑戦し続けることが、ファンの皆様の喜びや笑顔に変わるのだと信じております。所属タレント、役職員一同、前を向いて頑張ってまいります。ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」とコメントしています。

高田剛弁護士“当初説明していたビジョンと食い違いを感じる”

新会社と旧ジャニーズ事務所=「SMILE-UP.」との経営の分離について、企業統治に詳しい高田剛弁護士は「SMILE-UP.」がファンクラブを運営すると規約で示されていることを挙げ、と次のように指摘しました。

「ファンクラブ事業を移すのは第三者間取引になるので新会社から旧会社に対価を支払わなければならず、税金を含めコストの部分が1つの問題となった可能性がある。

新会社と旧会社を完全に分離するという宣言のもとで新会社が立ち上げられた経緯からすると、収益が大きいファンクラブを整理できなかったのは、当初説明していたビジョンと食い違いが出てきていると感じる」

その上で。

「結局、旧会社の影響力を完全に断ち切れていないように見えてしまう。憶測や誤解をなくすためにも説明責任を果たすというのは非常に重要だ。積極的により踏み込んで説明をすることによって、しがらみが残っているのではないかという懸念を払拭する努力が必要だ」

元所属タレント “補償受け入れ後の会社側の対応にも疑念”

橋田康さん

「SMILEーUP.」からの補償を受け入れた元所属タレントは、いまも性被害を告白した影響に苦しみ、その後の会社側の対応にも疑念を感じていることを打ち明けました。

1998年から7年ほど「ジャニーズJr.」として活動していた橋田康さんは、退所後もダンスを続け、ダンサーや俳優として活動してきました。

去年5月、ジャニー喜多川氏から13歳のころに性被害に遭ったと明かし、子どもの性被害を防ぐための法改正を求める署名活動などを行ってきました。

事務所に対しては、現在いるタレントのために再発防止を求める一方で、自身の補償については金額面で争わない姿勢を示し、去年11月に補償が始まると「SMILEーUP.」から提示された案をそのまま受け入れたといいます。

一方で、性被害を告白したあとダンサーや俳優の仕事の依頼がなくなったといいます。

橋田さんは「今までやってきたものが壊滅的な状態になっていて『性被害のことで表に出た人が役についたら性被害のことしか入ってこないんじゃないか』という話をされたこともあります。ただこれで諦めてしまうと性被害を訴えたら仕事を失ってしまう現実を受け入れることになるので、なんとか変えていきたい」と打ち明けました。

さらにSNSやメールによるひぼう中傷も後を絶たず、「『黙っててくれ』とか『とにかく何も言うな』と言われ続けて心が苦しく、やめてほしいとSNSで発信もしたが止まらず、届くものに今も傷ついています」と話していました。

また、その後の「SMILEーUP.」の対応については、3月、イギリスの公共放送BBCが配信したインタビューの中で東山紀之社長が、旧ジャニーズ事務所のスタッフ2人が所属タレントに性加害を行っていたことを初めて明らかにし、被害を告発した人へのひぼう中傷をめぐって「言論の自由もある」などと発言したことに疑問を感じたといいます。

橋田さんは、所属していた当時、スタッフから被害に遭った人から話を聞いたことがあると明かした上で、「いまはスタッフからの被害を届けている人はいないのかもしれないが、事務所側から『言っても大丈夫だ』という姿勢で寄り添い続けてほしい。ひぼう中傷についても駄目だとしっかり提言して欲しかった。ああいう発言になってしまうのは非常に残念な形だと思いました」と話していました。

そして、現状では十分な説明責任を果たしていないと指摘した上で、「何もせずに放っておけば風化して騒ぎも収まるだろうと思っているのではと、捉えてられてもおかしくない対応に見えるのが悔しい。結局僕の中では、新会社も『SMILE-UP.』もジャニーズ事務所も一緒で、してきた過去に対して紳士的な対応というものを強く望みたい」と訴えていました。

補償への手続きは今も続く

被害者への補償をめぐっては、ジャニー喜多川氏からの性被害を申告した人は973人に上る一方、会社側と合意に至ったのは350人余りで、補償に向けた手続きは今も続いています。

旧ジャニーズ事務所は社名を「SMILEーUP.」に変更し、新たに東山紀之氏が社長に就任し被害者への補償を行った上で将来的には廃業するとしています。

去年9月に、被害者の補償に向けて3人の弁護士による「被害者救済委員会」を設置して被害の申告を受け付け始め、11月には会社側が提示した補償案に合意した人たちへの補償が始まりました。

会社側の発表によりますと、3月29日までに窓口に被害を申告した人は973人に上り、
このうち被害の事実確認を終えたとして会社側が補償額を通知した人は413人。その356人が合意し、324人に補償金の支払いを終えたとしています。

一方、43人に補償を行わないと通知したとしています。

補償をめぐっては、在籍当時の活動状況が確認できる資料や、性加害により受けた影響に関する診断書の提出を求めているほか、在籍確認が出来ない人も追加の資料提出や聞き取りなどで個別に対応するとしています。

ただ、被害を訴えている人からは▽ヒアリングの過程に心のケアの専門家を入れる必要性や、▽補償の基準が不明瞭だとする声があがっています。

一方、被害を告発した人へのひぼう中傷が深刻な問題になり、去年10月には、補償を求めていた大阪市の40代の男性が亡くなり自殺とみられています。

男性は性被害による精神的な不調を訴えていたほか告発後にひぼう中傷を受けていたといいます。

当時、男性の遺族は「事務所に性被害を受けたと訴えたものの放置され、彼の焦燥感、悩みは深まっていた」などとコメントしていて、先月、遺族に補償が行われたということです。

性暴力の根絶を目指し新団体を立ち上げ

ジャニー喜多川氏からの性被害を告発した元所属タレントたちの中には、子どもの性被害をなくしたいと新たな団体を立ち上げて行動を始めた人たちもいます。

団体を立ち上げたのは、旧ジャニーズ事務所の元所属タレントの飯田恭平さん、大島幸広さん、長渡康二さん、中村一也さん、二本樹顕理さんの5人です。

いずれも、ジャニー喜多川氏から10代の頃に性被害に遭ったと顔と名前を出して告発し、ひぼう中傷などに苦しみながらも事務所に対し被害者への補償と救済を求めてきました。

自分たちのような思いをして欲しくないと、子どもへの性暴力の根絶を目指し立ち上げた団体は、「被害者はたった1人でさえも多すぎる」という意味の英語にちなみ、「ワニズアクション」と名付けました。

メンバーの長渡さん
「自分たちが被害を告白したあと社会の性被害に対する認知は変わってきたと思うが、まだ足りないと思っている。子どもたちの未来のために何かしたいと集まったので、声を上げるきっかけになれたらと思う」

4月6日には発足にあわせて都内でイベントを開き、会場に100人以上が集まる中、専門家4人とともに性犯罪をめぐる法制度の現状や被害を防ぐための学校での性教育のあり方などについて意見を交わしました。

メンバーの中村さん
「15歳で性被害を受け、去年まではずっと胸にしまっておくつもりでした。これから育っていく子どもたちに性被害を生まない社会にしたい」

参加した人
「元タレントの皆さんが声をあげてくれたからこそ問題が取り上げられるようになったので、それをつないでいけるよう私も行動していきたい」

団体では子どもに対する性犯罪の時効の撤廃を求める活動や、被害者の心のケアなどに取り組んでいくということで、

メンバーの二本樹さん
「これだけの被害を生んでしまった事件を一芸能界のスキャンダルとして終わらせてしまってはならず、そして性被害は仮に補償がされたとしても終わらせることができるものではない。
自分たちが行動することで性被害が及ぼす影響を広く社会にも認知してもらいたい」

各局のテレビ番組起用の状況(4月1日現在)

旧ジャニーズ事務所のタレントをめぐるテレビ番組での起用について、NHKと民放各局の4月1日現在の状況をまとめました。

このうちNHKは、「被害者への補償や再発防止の取り組みが着実に実施されていることが確認されるまで当面、新規の出演依頼は行わない方針で、今後、2社の取り組みの状況を確認したうえで新規の出演を依頼するかどうか判断します」としています。

日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビはいずれもドラマや情報番組などで起用しています。各局の起用の理由と方針については、次のとおりです。

▽日本テレビは「起用についてはSMILE-UP.社とSTARTO ENTERTAINMENT社の取り組みやその進捗を注視しながら、個別案件ごとに適切に判断しています」としています。

▽テレビ朝日は「番組での起用につきましては、これまで通り企画内容などを踏まえて、その都度、総合的に判断しております」としています。

▽TBSは「旧ジャニーズ事務所とは、対話を通じて補償や人権問題の改善の状況を見ている段階ですので、所属のタレントさんの起用・出演について変更は考えておりません」としています。

▽テレビ東京は「新規の起用については見合わせています。テレビ東京は自社で策定した人権方針と、人権デューデリジェンスに基づき、SMILEーUP.およびSTARTO ENTERTAINMENTと対話を続けながら、必要な事項を確認しています」としています。

▽フジテレビは「当社は自社の人権方針に基づき、SMILE-UP.社に対して人権の尊重ならびに性被害申告者の方々に対する誠実な対応を求めております。旧ジャニーズ事務所所属タレントの起用に関しては、こうした一連の対話等を通じて、その都度、確認しながら最適な判断をしております」としています。

コンサートに訪れたファンは

10日、開かれた「STARTO ENTERTAINMENT」のコンサートに訪れたファンに話を聞きました。

一緒に訪れたという20代と10代の女性は、「楽しみにしていました。応援しているグループの名前は変わりましたが、メンバーが前向きなのでファンも変わらずに応援したい」と話し、旧ジャニーズ事務所の性加害の問題については、「問題はよくないですが、アーティストは変わらず活動できるように頑張ってほしい」と話していました。

また、40代と50代の女性は、「今まで応援していて、タレントたちもずっと同じテンションで活動しているのでこれからも応援したいです。本人たちは問題には関係ないので、しっかり頑張ってくれれば後から皆さんの評価がついてくるのかなと思っています」と話していました。

そして、能登半島地震の被災地石川県内灘町から訪れたという40代と10代の親子は、「震災で暗くなっていましたが私たちも新たな気持ちで一緒にスタートできるという感じで、力や勇気をもらいました。補償の問題についても取り組んでいると思うので、いい方向に進んでほしい」と話していました。

50代の母親と20代の娘は、「性加害に遭った方たちの思いを考えると心苦しいですが、やはり今頑張っているタレントたちを応援したい。これからの新会社を見守りたいと思います」と話していました。

ジャニー喜多川氏による性加害問題の経緯

ジャニー喜多川氏による多数の少年への性加害問題をめぐるこの1年余りの経緯です。

▽去年3月:イギリスの公共放送BBCがジャニー喜多川氏からの被害を訴える元所属タレントの証言をドキュメンタリー番組で発信したことをきっかけに波紋が広がりました。

▽4月:元所属タレントのカウアン・オカモトさんが、顔と名前を出してジャニー喜多川氏からの性被害を会見で証言。NHKや全国紙などもこの問題を伝え始めました。

▽5月:ジャニーズ事務所がホームページで文書と動画を公表。この当時社長だった藤島ジュリー氏が謝罪しましたが、性加害については知らなかったと説明しました。

▽8月:▽ビジネスと人権をめぐる問題としてこの問題を調査した「国連人権理事会」の専門家が会見し、「数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという疑惑が明らかになった」などと見解を示しました。

▽事務所が設置した専門家による特別チームが調査報告書を公表し、ジャニー喜多川氏がおよそ60年にわたり多数の未成年の少年に性加害を繰り返したと認定。

適正な補償制度を構築するよう指摘しました。

▽9月:ジャニーズ事務所としてこの問題で初めて会見。藤島ジュリー氏が、性加害を認めて謝罪した上で、社長を辞任したと明らかにしました。

▽10月:東山紀之新社長らが会見し、社名をジャニーズ事務所から「SMILEーUP.」に変更し被害者への補償を行った上で将来的には廃業することや、タレントのマネジメントなどを行う新会社を設立することを発表。

▽11月:「SMILEーUP.」が提示した補償案に合意した人たちへの補償を開始

▽12月:新会社の名前、「STARTO ENTERTAINMENT」と、福田淳氏の社長就任を公表

▽ことし3月:「SMILEーUP.」の東山紀之社長がBBCのインタビューに、旧ジャニーズ事務所のスタッフ2人が所属タレントに性加害を行っていたことを明らかにし、会社もホームページで公表しました。

▽4月10日:新会社が「本格的に業務を開始」

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