最先端半導体の量産を目指すラピダスは11日、米シリコンバレーで新会社を設立したと発表した。人工知能(AI)企業が集積する地域で顧客開拓を仕掛ける。米国では新興企業もAI半導体の開発に意欲を示している。ラピダスは少量の受注からでも引き受け、新興企業による半導体製造の受け皿になることを狙う。
ラピダスは米西部カリフォルニア州サンタクララで新会社を設立した。サンタクララは米エヌビディアや米インテルが本社を置く半導体企業のお膝元だ。この地域を含むシリコンバレーの一帯にはソフトからハードまで幅広いAI企業が拠点を置く。
11日にはサンタクララで記者会見を開き、小池淳義社長や技術開発で協業する米IBMの研究部門の半導体責任者らが出席した。小池氏は会見で「初期はシリコンバレーの顧客がかなりの部分を占める。新興企業と一緒に開発するのは極めて重要だ」と新会社の狙いを説明した。
新会社の社長には米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)やIBMでマーケティングを担ったアンリ・リシャール氏が就任した。ラピダスはリシャール氏が培った経験と人脈を生かし、近くシリコンバレーで本格的に営業活動を始める。
英オムディアによると、AI半導体の市場はエヌビディアが2022年時点で8割のシェアを占めていた。AI半導体で独走するエヌビディアは台湾積体電路製造(TSMC)に製造を委託し、開発に特化する。ラピダスがTSMCに正面から挑んでも勝算は低い。
ラピダスにとって追い風は、新興企業を含めた新たなプレーヤーがAI半導体を開発する流れだ。「Chat(チャット)GPT」を手がける米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は半導体開発を模索していると報じられている。エヌビディアの対抗馬が増えれば製造を受託する企業には商機となる。
ラピダスはAI向け半導体を設計・開発するカナダの新興企業、テンストレントとAI半導体の開発で提携している。テンストレントは韓国サムスン電子にAI半導体の製造を委託すると表明済みだ。ラピダスも将来の製造受託を視野にテンストレントと関係を深める。
ラピダスは少量の注文からでも引き受け、素早く製造を支援する方針だ。製造手法をAIによる分析で効率化し、納期を競合に対して2分の1以下まで短縮することを目指す。ウエハーを短時間で1枚1枚処理する製造方法で不具合が出てもすぐに設計段階から修正をかけ、数時間かけて一度に大量処理する従来の手法と違いを出す。
米マイクロソフトや同アマゾン・ドット・コムなど巨大IT企業は自前の半導体開発に乗り出している。マイクロソフトは2月、米インテルが開いたイベントで同社に半導体の生産を委託する計画を明らかにした。AI半導体の重要性が増すなか、受託分野でも競争が熱を帯びている。
AI半導体の市場規模は拡大している。独調査会社スタティスタなどによると、半導体市場に占めるAI半導体のシェアは23年時点で10%だが、27年には16%まで高まる。
ラピダスは27年から2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体の量産を目指す。経済産業省から巨額の支援を受けて準備を急ぐが、販路が広がらなければ将来的な投資回収は難しい。知名度や実績が乏しいなか、米国でどこまで顧客開拓できるかが課題となる。
(シリコンバレー=清水孝輔、向野崚)
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