セミナーは芸術の分野で活動する俳優などの実演家やスタッフが加入した70の団体でつくる、日本芸能実演家団体協議会が開きおよそ40人が参加しました。

コロナ禍では各地で舞台公演や演奏会が中止となりましたが、協議会がおよそ2万人の芸術家などに去年7月、アンケート調査を行ったところ、6割以上の人がコロナ禍のおととしの年収は300万円未満だったと答えたほか、4割以上の人は、依然としてコロナ禍前に比べ、収入が半分未満に減ったままだと答えたということです。

こうしたことから、セミナーで登壇した俳優の大滝寛さんは「コロナ禍での経験によって俳優だけでなく、舞台芸術に関わるものや芸術家のためとなる互助の仕組み作りがわれわれの願いになっている」と語りました。

また、ブロードウェイなどで活躍する由水南さんはアメリカの例を挙げ、俳優がけがをしても、プロデューサーらが加入する保険によって治療費などが支払われるケースがあるほか、災害や病気などで仕事ができない際に支援する非営利の法人があり、業界全体で俳優らを支える体制があると紹介しました。

協議会のアンケート調査では、労災保険や雇用保険の適用がないと答えた人が60%から70%以上にのぼったほか、民間の保険や貯蓄といった備えについてもおよそ25%が「金銭的な余裕がないため、特に何もしていない」と答えたということです。

参加した演出家の男性は「不安を抱えながらも好きな仕事だと納得して続けていますが、いざというときの保障があると、心も豊かになって自信や勇気を持って活動に取り組めると思います」と話していました。

アンケートに回答したバイオリニストは

日本芸能実演家団体協議会のアンケートに回答した1人、バイオリニストの越川歩さんです。

フリーランスの立場で、中島みゆきさんをはじめアーティストのツアーに参加するなどしてきた、20年以上にわたる音楽活動がコロナ禍で大きく変わりました。

コロナの感染が拡大した2020年の手帳には、2月末からすべての公演などが中止となったことが書き留められています。

その前は毎週のようにあった収録や演奏会などへの出演がすべてなくなり、無収入の状態も1年ほど続いたということです。

越川さんは当時のことを、「演奏して対価を得るので、その元がないということは収入が途絶えることです。減少というよりはもう一切ないというような状況に陥りました」と語ります。

このとき、越川さんは個人事業主などを対象とした国の給付金を申請しましたが、手続きの最初から戸惑ったといいます。

越川さんは「何か申請しても音楽家って書く欄がまず無いんです。サービス業と言っても違うし、自営ではありますが、そこもやはりさまざまです。助成金もすぐに支払われるものではなく、1年ぐらいは空白の時間があったのではないかと思う」と振り返ります。

そして去年5月、コロナは感染症法上の5類に移行されました。

しかし、プロの演奏家である越川さんが出演料を得られる演奏会は、コロナ前ほどには戻っていないといいます。

越川さんは、「社会の中での自分の立場とか、いろいろなことが浮き彫りになってそれを突きつけられるというか、改めて実感しました。危うさというか、失業に対する補償や仕事がなくなった者に対する補償が一切ないっていうのを初めて目の当たりにしたという感じです」と語り、実演家向けに、病気や災害で収入が減った際などに活用できる社会保障の必要性を訴えています。

専門家「業界全体で支える仕組みが必要」

文化政策が専門の早稲田大学の秋野有紀教授は、日本の実演家の働き方の現状について、「本当に仕事の繁忙期にすごく波があり、一般的な企業であれば労働者として守られる仕組みが実演家には適用されない。安心して活動できるかはすごく重要なことだ」と指摘しています。

そのうえで、フリーランスの人が加入できる保険をうまく活用することが重要だとして、その保険料の一部をイベントの主催者側が負担するなど、業界全体で支える仕組みが必要だと訴えています。

秋野教授は「実演家はたくさんトレーニングをしてけがをしてしまってもその後の補償がないのはやっぱり不安だし、才能のある人が業界を目指そうと思わなくなってしまうと思う。業界全部で、連帯感で支えるのが一番重要ではないかと思う」と話していました。

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