研究をもとに復元した初期火星のイメージ= Lucy Kwok氏提供

東京工業大学などは約30億年前の火星の堆積物から発見された有機物が、一酸化炭素に由来しているとの研究成果を発表した。大気中の二酸化炭素(CO2)が太陽光のエネルギーで一酸化炭素となり、その後、有機物になって堆積した可能性が高いという。生物の痕跡という説もあるが、今回の成果によって薄らいだ。

火星の約30億年前の堆積物には有機物が含まれ、その由来について学術界で議論されてきた。生物の痕跡であるとの説や、熱による化学反応でできた説、隕石(いんせき)で飛来した説などがあった。

研究チームが手掛かりにしたのは、有機物を構成する炭素の安定同位体比だ。炭素原子は質量がわずかに異なる複数の同位体があるが、火星の有機物には特定の炭素同位体が極端に少ない。「太陽系のどんな物質よりも少なく、有機物の成り立ちが特異なことが示唆されてきた」(東京工業大学の上野雄一郎教授)

そこで、こうした安定同位体比の炭素ができるプロセスを検討したところ、CO2分子が紫外線の影響で一酸化炭素に変わる反応で、これとよく似た結果となることが分かった。理論的な計算と実験の両方で確かめた。

これを火星に当てはめると、火山から噴出したCO2が太陽光のエネルギーで一酸化炭素に変わり、大気中の水素と結合して有機物ができ、雨などで地上に落ちて堆積したと考えられるという。

現在の地球や火星では、大気中の酸素によって一酸化炭素がCO2に戻り、このような反応が起こらないが、昔の火星には酸素がないため有機物になる。計算によれば、大気中のCO2の2割が有機物に変換されたことになる。

生物との関連について、「光合成でCO2から有機物をつくり出す生物がいた可能性は下がった。ただ、空から降ってきた有機物を食べる生物がいた可能性は捨てきれない」(上野氏)と話す。

上野氏は「初期の地球でも同様の現象が起こっていただろう。一酸化炭素由来の有機物が地球の生命誕生に関わっていたことは十分に考えられる」とみる。今後詳しく調べる予定だ。

東京大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、コペンハーゲン大学などとの共同研究の成果で英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表した。

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