現在、南極では毎年約1000個の隕石が見つかっている。しかし、気候条件の変化により、大量の隕石が氷の下に沈んでしまう可能性がある。(PHOTOGRAPH BY CINDY EVANS, NASA)

南極では、これまでにおよそ5万個の隕石が見つかっており、さらに数万個を回収できる可能性がある。そうした隕石の一つひとつには、太陽系の進化の物語が秘められている。たとえば、この氷の大陸で見つかった最初の月の石は、小惑星よりも大きな天体の物質が地球に届く可能性があることを教えてくれた。

現在、科学者らは毎年約1000個の隕石を南極で発見している。しかし、学術誌「Nature Climate Change」に4月8日付けで発表された研究によると、温暖化によって、毎年約5000個の隕石が氷に埋もれて消えているという。

こうした変化を推定するにあたり、科学者らは、隕石が表に出てくる可能性がある場所を特定するモデルを開発した。ベースとなっているのは、積雪、表面温度、氷の流れの速さ、地形の勾配などの要因だ。そして、科学者がさまざまな温暖化シナリオにおけるシミュレーションを行ったところ、気温が上昇するにつれて隕石が氷の下に沈んで見えなくなると判明した。

「気候変動の予期せぬ影響と言えるでしょう」と、ベルギー、ブリュッセル自由大学の氷河学者で論文の共著者のハリー・ゼコラーリ氏は言う。「問題となっている場所の気温は氷点下でも、われわれは太陽系についての情報が蓄えられている非常に重要なアーカイブに大きな影響を与えているのです」

氷の中に沈む隕石

南極にある隕石の大半が回収されるのは、通常であれば標高の低い方へ流れる氷が上方へ押し上げられる、山のふもとや露頭の周辺だ。そうした場所では、強い風が雪を払い、非常に古いせいで鮮やかな青色に輝く氷を露出させる。一部の氷は、解けることなく直接水蒸気に変化し、埋もれていた隕石を露出させてくれる。

ただし、表面に出てきた隕石はすぐに消えてしまう可能性がある。気温が氷点下よりもかなり低い場合、岩石が太陽の熱を吸収して周りの氷だけを解かし、そこに沈んでしまう。そして、再び水が氷れば、氷に閉じ込められた隕石は視界から消え去ってしまうのだ。

「そうした隕石を見つける方法を開発するのは非常に困難です」と、論文の筆頭著者であるブリュッセル自由大学の氷河学者フェロニカ・トレナール氏は言う。「隕石が回収不能になるとわれわれが訴えているのはそのためです」

現在の政策下において予想される温暖化に基づいたコンピューターシミュレーションは、氷床の表面にある隕石の約3割が今世紀末までに氷の下に沈むと示している。数で表せば9万〜25万個だ。

2015年、新たに発見された隕石を調べるNASAの南極隕石探査(ANSMET)のメンバー。(PHOTOGRAPH BY CINDY EVANS, NASA)

失われる地球と太陽系の記録

南極には、火星からやってきた隕石もある。中でも特に有名な「ALH 84001」には、数十億年前には火星は暖かく、表面に水が存在したという証拠を裏付ける鉱物が含まれている。

さらに、氷床の隕石には、かつては「太陽系初期に自由に浮遊していた塵のかけら」だった物質も含まれていると、英ロンドン自然史博物館の隕石専門家であるサラ・ラッセル氏は言う。

そうした岩石の中にはしばしば、宇宙空間にあったときに含まれていた氷が解けてできた水によって変質した鉱物が存在する。その変質した岩石で、研究者らは、地球に衝突した小惑星から、数十億年前に地球の海をつくった水がどのようにもたらされたかを研究できる。

隕石はまた、木星の巨大な重力が、太陽系のさまざまな領域の物質が混ざり合うのを防いだかどうかなど、太陽系の初期に起こった可能性があるその他のプロセスについての情報も提供してくれる。

南極の隕石は、地球上で最も風化が進んでいない宇宙岩石でもある。寒くて乾燥した環境が、隕石の保存を助けているからだ。結果として、南極の隕石はそれが形成された当時の太陽系の状況を表していると、科学者らは確信している。

南極からはまた、ほかの場所にはない独特の隕石が見つかると、ラッセル氏は言う。

そうしたものの中には、新しいタイプの小惑星に由来するものや、既知の種類の小惑星からの隕石であっても、地球まで到達した前例がなかったものなどが含まれており、隕石がいかに多様であるかが表れている。

「あまり時間はありません」

とはいえ、消えてしまう前により多くの隕石を見つけ出すのは簡単ではない。結局は「現場で足を使って探すしかない」と、米ケース・ウエスタン・リザーブ大学の惑星科学者ラルフ・ハーベイ氏は言う。

ハーベイ氏はまた、「今回の研究にたずさわった人々がやっている仕事は、隕石が見つかる可能性がある場所の限界を広げ、そうした場所がどのように変化しているのかを明らかにするうえで非常に有効です」と述べている。

ゼコラーリ氏は、同研究によって隕石が早い時期に消えると予測された地域を優先すべきだと語る。

「あまり時間はありません」とトレナール氏は言う。「人員を増やし、より多くの場所で隕石を回収する必要があります」

文=Theo Nicitopoulos/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年4月22日公開)

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