これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、生産期間わずか4年という幻のアメリカ産サルーン、プロナードを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/トヨタ

■FF最高級セダンを目指したトヨタの意欲作

 いまほどにユーザーのライフスタイルが多様化していなかった時代の定番といえばセダンだった。セダンなくして日本におけるカーライフの発展はありえなかったと言っても過言ではないが、昨今の国産自動車市場ではセダンの人気が著しく下がり、各メーカーとも車種を減らしている。

 不人気ジャンルとはいえ、操縦安定性が高いうえに乗り心地がよく、居住性や実用性にも優れているセダンの優位点は、セダンが定番の選択肢だった時代から変わっていない。能力が高い水準で調和されているうえに、質の高い内外装の作り込みによって醸し出される上品な佇まいも、セダンの変わらぬ魅力として認知されている。

 今回クローズアップする「トヨタ プロナード」は、そんなセダンの特徴を端的に表した1台で、1995年に発売された「アバロン」の後継モデルとして2000年4月にデビューした北米市場向けの4ドアセダンである。

 開発はトヨタと米国のTTC(Toyota Technical Center,U.S.A., Inc.)が一体となって行い、生産はTMMK(Toyota Motor Manufacturing, Kentucky, Inc.)が担当。アメリカから輸入販売されることや、既存の国産セダンとは一線を画す雰囲気と個性を有したモデルとして注目を集めた。

典型的な3ボックススタイルとしながら、要所にきらびやかな印象を強調したアイテムを加えた外観は、新しい高級車像を提案した

 アメリカ生まれのセダンにしては外観が少々コンサバだが、セダン特有の3ボックススタイルをしっかりと表現したフォルムは骨太な印象だ。

 サイドウインドウ面の外出しや、ピラーの立ち上がり位置を前後方向に広くとって室内空間に余裕を持たせたビッグキャビンをボディとワンモーションで融合させたうえで、シャープな面とラインの構成をプラスすることで先進的な雰囲気を演出。

 独立4灯フロントヘッドランプに精緻な意匠のラジエーターグリルを配したフロントまわりは、プロナードが上級セダンであることを主張している。

■FFのメリットを活かして車内の広さはセルシオレベル

6人乗りの場合は、コラムシフトとなり前後ともにベンチシート。まるでアメリカ車のようなパッケージングだった

 車内はFFレイアウトとビッグキャビンの採用に加え、サイドウインドウ面を立てることで同クラスのセダンをはるかに凌駕する広さを確保。前後席とも肩まわりや足もとには十分なゆとりがあり、特に後席の膝まわりは前席と後席のヒップポイント間距離を990mmとしたことで、足を組んでゆったりと乗車できる。5人/6人乗りが選べたのだが、6人乗りの場合コラムシフトとなり前後ともにベンチシート。全幅の広さからかなり寛げるパッケージングだった。

 また、地上からのヒップポイント高さが、前、後席とも550mmに設定され、頭部や腰部の上下移動の少ない自然な姿勢で乗り降りできるのも心地よさをもたらす要素となっている。

 セルシオやクラウンといったひとクラス上のモデルほど華美な装飾はなされていないが、明るく高級感のあるアイボリー基調のツートーン配色や、要所にあしらった木目調パネルによってラグジュアリーな雰囲気が漂う。広い室内でゆったり心地よくドライブできるという特徴は、FF最高級セダンを標榜し、新しい高級を提案したプロナードのセールスポイントのひとつに挙げられる。

 FFパッケージは十分なトランク容量の確保にも貢献。562Lという大きなスペースには、大型スーツケースが4個収納できるほかゴルフバッグも余裕で積載できる。開口部を低くするとともに荷物の固定に便利なフックやネットを採用し、トランクスルー機能も備わっているので、日常の用途なら使い勝手にまったく不満はない。

トライアングル形状のリアコンビネーションランプと逆台形形状のライセンスプレートによって構成されるV型意匠がスポーティ感を強調

 心地いい移動を提供することへのこだわりは、充実した装備にも見てとれる。シートは前後ともに豊かな量感を持ち、乗員の身体をしっかりと支えるフィット感があるため長時間のドライブでも快適性を維持できる。

 エアコンは運転席と助手席での独立した温度コントロールが可能なうえに、花粉などを除去するクリーンエアフィルターを全車に標準装備。上級グレードには後席にも吹き出し口が設けられるなど、同乗者に対する配慮も万全だ。

 インパネ中央には、当時としては大型な7インチワイドディスプレイのエレクトロマルチビジョンを搭載。燃費や走行可能距離をはじめとした情報のほか、ナビゲーション画面を表示する。

 ナビはDVD方式が採用され、経路探索処理速度が大幅な向上や、目的地の住所戸番レベルでのピンポイント検索が可能。さらにFM多重放送、VICS受信機器への接続、自動車向け情報サービスのトヨタ情報通信システム・モネ(MONET)にも対応する。こうした機能性の高さも快適な移動に寄与する要素だった。

■上品な佇まいに見合った心地いい運転感覚

 パワーユニットは、215ps/30.5kgmを発生するV型6気筒3Lエンジンを搭載。回転数と負荷に応じて吸気バルブタイミングを最適に制御するVVT-iや、走行状態にあわせて吸気管の長さを制御する3段可変吸気システム(ACIS-IV)といったメカニズムの採用により、クラストップレベルの低中速トルクを実現している。

 ボディサイズは全長4895mm、全幅1820mm、全高が1460mmという堂々としたサイズで、車両重量は1500~1540kgとなるが、それをことさら意識させず、ドライバーの意思に忠実なフィーリングが味わえた。

 足まわりは4輪独立懸架方式で、フロントにはマクファーソンストラット式、リアにはデュアルリンクストラット式を採用し、前後ともスタビライザーを設定することで、路面の状態を問わずしなやかな乗り心地と優れた操縦安定性を発揮する。

 乗り心地が快適なうえに、エンジン本体からボディへ伝わる振動を低減するアクティブコントロールエンジンマウントが採用されたことで、アイドリング振動を大幅に抑制したうえに、防振サブフレームや高剛性ボディの採用、制振材・吸遮音材を適所に配置。エンジン本体の低騒音化、車内へノイズ侵入の抑制、さらに優れた空力特性の追求によって、高級セダンにふさわしいNVH性能を実現していた。

横長のメーターとドアトリムへとつながるインパネの造形は、伸びやかな印象を与える。パーソナル空間を演出しつつ、明るく高級感のあるアイボリーを基調とするツートーンの配色がラグジュアリーな雰囲気を演出

 2002年9月にはマイナーチェンジを実施した。上品な外観は、クロームメッキを施したフロントグリルや、開口部に広がりを持たせたフロントバンパー、きらびやかなイメージを強調したリアコンビネーションランプ、さらに立体的な形状のライセンスガーニッシュなどを採用することで、プロナードの特徴であるワイド感とプレミアムなイメージがさらに際立った。

 車内も木目調&本革巻きステアリングホイール、木目調&本革巻きシフトレバーノブ、ロゴ入りアルミスカッフプレートといったアイテムを加え、インテリアカラーにも変更が施された。装備面ではディスチャージヘッドランプや、雨天時の視認性を確保する撥水機能付フロントドアガラスを備えて安全装備の充実させたほか、アンサーバック機能を備えたワイヤレスドアロックリモートコントロールを全車に標準装備するなど、利便性の向上が図られた。

 発売当初から積極的にプロモーションしたものの、アメリカ産の逆輸入車というレア感はユーザーにいまひとつ響かなかった。当時のトヨタには、クラウン、アリスト、マークII、クレスタ、カムリといった人気車種が存在し、他メーカーにもセダンの選択肢は豊富だったことも販売が振るわなかった要因と言っていい。

 日本での販売期間はわずか4年。新車登録台数の累計は7620台というトヨタ車とは思えないような数字にとどまり、その後のクルマに影響を及ぼすこともなかった。販売は残念ながら狙い通りにはいかなかったものの、プロナードという車名はフランス語の「Prôner(称賛する)」からつけられたもの。シンプル&プレーンな上級セダンとしての実力としては、間違いなく称賛されるレベルに達していた。

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