各地のさまざまな食材で彩られる豊かな食卓の先行きが懸念されている。国内の食品流通のほとんどを支えている、トラック運転手の残業が4月から制限されるためだ。1人が働ける時間が限られる中、何らかの対策がとられないと物流の停滞も懸念される。業界の現状や取り組みを2回に分けて追った。 (藤原啓嗣)  手動の運搬用リフトを操り、パンや鮮魚を次々とトラックに積み込む。愛知県蟹江町にあるチルド運送大手ムロオの名古屋支店。2月上旬のある夜、ドライバーの今宮重朗さん(62)は「昔から自分で荷物を積むのが当たり前だった。今は求人を見て来た人に、『自分で荷を積むのか』と驚かれる」と語った。  この日は午後4時~翌午前3時の勤務。三重県川越町への配送後、午後7時からの仕事に同行した。荷物を10トン積める大型トラックで支店から名古屋市内の卸売市場、物流センターの往復約40キロを結び、食品を届ける予定だ。  荷積みを終え、午後8時40分ごろ、目的地の名古屋市中央卸売市場本場(同市熱田区)へ出発。ハンドルを握ると視線が厳しくなる。交差点では、赤信号を予想したかのように静かにトラックを止めた。

真剣な表情でハンドルを握る今宮重朗さん=愛知県蟹江町で

 18歳からハンドルを握る。かつては名古屋から関西地方、四国を結ぶ往復千キロを走り、トラックやフェリー内の仮眠だけで1カ月働き続けたことも。定年後は嘱託職員として主に県内の卸売市場や物流センターへの近距離輸送を担当する。勤務は翌日の未明にまで及ぶ。「日に100キロも走らないが、事故に巻き込まれることはあり得る。100%安全ではないが、働かないと生活が不安だ」  市場に到着し20分ほど待つと、荷役会社の従業員が荷降ろしを開始。フォークリフトを使った作業は約10分で終わった。「次の物流センターが決めた荷降ろし時間まで余裕がある」。市場内の駐車場に2時間ほどとどまった。普段から、状況に応じて仮眠を取るなどしているという。  午後11時20分ごろ出発し、名古屋市港区内の2カ所を巡った。最後の物流センターに到着後、記者がトイレから車に戻ると、今宮さんはハンドルの上に身を伏せて目を閉じていた。夜間の仕事は、やはり体にこたえるのだろうか。  冷凍食品を積み込み、午前1時25分に帰社。荷物を保冷庫に収めると、既に次の出荷準備を進める仲間の姿があった。380人ほどで卸売市場や大手スーパーの物流センターに24時間365日、食品を届ける。「僕たちの仕事に終わりはない。ただ引き継ぐだけ」と今宮さん。食卓を陰で支える仕事への思いを語る。  午後7時以降に限っても、指定された荷降ろし時間や作業の準備を待ったりする「荷待ち時間」が計約150分に上った。トラックを走らせた90分を大幅に上回り、運転手にとって効率的な働き方とは感じられなかった。  残業規制による収入への影響も気になる。かつては休日を返上してトラックを走らせるなどする人もおり、「『3年辛抱すれば家が建つ』と言われたほど給料も良かった」と今宮さん。「(きちんと残業が管理され)働く時間が減れば、手取りも減るはずだ。減収の痛みを感じる人もいるのでは」と語る。  安全性や心身への負担、そして金銭面…。トラック運転手の仕事の先行きに気をもむ。

<物流の「2024年問題」> 5年間猶予されていた働き方改革関連法が4月から「自動車運転の業務」にも適用される。トラック運転手などの残業時間の上限は年960時間。何らかの対策がとられないと、運べる荷物量が24年度には19年度から14%、30年度は34%減るとの試算がある。




鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。