23時に注文した品物が翌朝届く。そんなネット通販を支える物流施設がある。佐川急便を傘下に持つSGホールディングスの「Xフロンティア」(東京・江東)だ。ロボットを駆使して効率化に挑む物流最前線を訪れた。
AI搭載ロボットが自動で商品をピックアップ
東京メトロ東西線の南砂町駅から歩いて5分ほど。Xフロンティアは佐川グループ最大の物流拠点だ。7階建てで延べ床面積は17万平方メートルと、東京ドームの3倍以上ある。
佐川グローバルロジスティクス経営企画部の大室和也さんの案内で、まずは5階を訪れた。ここはネット通販に特化したプラットフォームだという。
中に入ると、とにかく広い。鮮やかな「佐川ブルー」に塗られた壁の横の階段を上っていくと、30台のロボットが縦横無尽に動き回っていた。
「このオートストアでは、ネット通販業者から預かった品物をカゴのようなコンテナに入れて保管している」。大室さんが解説する。コンテナはバーコードで管理され、注文が入ると商品が入ったコンテナの上に人工知能(AI)を搭載したロボットが移動してピックアップし、作業員が待つ場所まで運ぶ。パズルのような作業だが、これがとにかく素早い。
コンテナは9段あり、全部で1万8000超。「従来と比べて4分の1のスペースで商品を保管できるようになった」と大室さんは自動化の効果を語る。
ピックアップした商品は作業員が検品し、カゴに入れる。カゴが一定数量たまったら、今度は自動搬送ロボット「オットー」が荷台を持ち上げ、梱包エリアまで運んでいく。
商品が保管されているのはオートストアだけではない。売れるまでの期間が比較的短いものは専用の商品棚に入れてあり、こちらも注文が入ると自動棚搬送ロボット「イブ」が棚ごと持ち上げて作業員のところまで運んでくる。
「商品のピックアップは大変な作業で、人がやると1日2万歩は軽く超えてしまう。自動化は作業員の負担軽減にもつながっている」(大室さん)
梱包エリアでも活躍するのは機械だ。自動梱包機が商品に合ったサイズに段ボールを裁断し、送り状の貼付やロゴの印字までやってくれる。訪問時はメンテナンス中だったが「段ボールや緩衝材の無駄が省ける上に、荷台に積み込める数が増えトラックの台数削減になる。箱が小さくなれば運賃も下がるので送り主にもメリットがある」と大室さんは解説する。
1時間に10万個の仕分けが可能 高速コンベヤー
ネット通販の商品は梱包のあと、下のフロアへと送られていく。Xフロンティアの1〜4階にあるのが佐川急便の中継センターだ。ここからは佐川急便輸送企画担当部長の西井茂さんに案内してもらった。
2階ではベルトコンベヤーの上を荷物が流れていく。時速約10キロというが、こちらも速い。特別に中に入らせてもらうと、目の前を流れる荷物が途中で次々とルートを変えていく。自動でエリアごとに仕分けしているのだ。西井さんによると、中継センター全体で1時間に10万個もの荷物を仕分けできるという。これまでの5倍だ。
荷物の中には大きさや形が特殊で自動仕分け機では運べないものもある。これまで台車に積んで人が運んでいたが、中継センターではここでもロボットが活躍していた。確かに350メートルもある通路を台車で運ぶとなると気が遠くなる。空いた時間はほかの作業に使えて生産性も上がりそうだ。
Xフロンティアでは「人ではなく荷物を動かす」発想の転換で、これまでの半分以下の人員で施設を運営しているという。2026年には同様の施設を兵庫県尼崎市にも新設する予定だ。
荷台と車体を切り離す 積み下ろし作業も効率化
最後に荷物の積み込み作業を確認しようと、トラックの発着場を訪れた。そこにはタイヤも車体もない、ただの荷台が置いてある。これは何か。西井さんに聞くと「スワップボディー車」だという。通常の宅配用トラックと違い、荷台が車体から切り離せるのだ。
ドライバーは荷物を積んだスワップボディー車を荷さばき場まで運んだら、荷台を切り離す。車体を別の場所に移動させ、荷物を積んだ荷台と合体して次の目的地へ向かう。
ドライバーにとって、荷物の積み下ろし作業は大きな負担だ。国土交通省によると、ドライバーの1日の平均労働時間は約12時間半で、このうち1時間半を荷物の積み込みなどが占める。この作業を切り離すことにより長時間労働を改善でき、物流の「2024年問題」の解決策として期待されている。
SGホールディングスではトラックへの積み込みにもAI搭載のロボットを活用しようと米国で実験を進めている。実装されれば一段と効率化が進みそうだ。
物流は経済を回す血液ともいわれる。人手不足が深刻化するなか、いかに生産性を高めるか。現場の苦労を肌で感じた。(編集委員 河尻定)
BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」との連動企画。日本経済を裏から支えている現場を日経記者が訪れ、映像でリポートします。
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