不格好で色づきもよくないが、めっぽう甘くて食感も良く、強風でも落ちない。そんな希少種のリンゴが、人気になっている。盛岡生まれの「青林(せいりん)」。今が旬だ。
盛岡市と一関市にある計17ヘクタールの果樹園「北与園」の2代目経営者だった小山田博さん(88)が開発した。
40年前、青森に生えていた「レッドゴールド」の種を盛岡市の農園主が育てていた。まだ実をつけていないうちに、その木が不要になり、小山田さんはその枝を譲り受けた。
「子どもの頃からのリンゴバカ」を自認する小山田さんは、試しに挿し木して育ててみた。すると、小ぶりでゆがんだ形の黄色い実がなった。食べてみると、いつ自然交配したのか「王林」の味がして、王林よりも甘かった。軸がしっかりしているので、台風が来ても落下しない。
岩手県果樹協会の品種同好会の会員に試食させると好評だった。「宝くじに当たったようだ」と改良を重ねて実を大きくし、1990年に品種登録した。当初はデパートで1個千円の値をつけて売ったこともあり、岩手県から皇室に献上するリンゴの常連になった。
しかし、不格好なことやPR不足などで手がける農家が少なく、生産は広がらなかった。北与園では小山田さんを継いだ三女・泉さん(57)が盛岡市で育てているが、50本ほどだ。
それが最近、県外からの引き合いが増えている。産直サイトの「ポケットマルシェ」で「江刺産リンゴ」で知られる奥州市の農家、菅野千秋さん(50)が4年前に出品したのがきっかけだった。
「幻のリンゴ」と銘打ち、「水戸黄門で言うと助さん格さんでなく、うっかり八兵衛のようなリンゴ」と説明して売り出すと評判になり、最近は出荷前から予約でほぼ売り切れてしまう。山形や青森などの農家も手がけるようになってきた。
菅野さんは「かつて産直で1キロ(3、4個)300~400円で袋売りしていたが、今は贈答品なみの1200円に跳ね上がった。SNSを通じ、希少なリンゴが価値を持った」と感謝する。
水分量が少ないので蜜の入りが遅く、収穫期が他より遅い11月中旬ごろからになる。「糖度が高く冬場でも凍結しにくいので長い期間収穫できる」と菅野さんは言う。(東野真和)
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